「正論」だけの上司が組織を衰退させる理由 不適切な命令は部下を「思考停止」に陥らせる

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そんな中、ある日起こったトラブル対応に関する業務指示の際に、メンバー数人がYさんに対する不満をぶつけてきました。その内容はこんなことでした。

「Yさんはいつも一方的で話を聞いてくれない」

「強引に抑えつけようとする」

「自分たちの大変さをわかっていない」

Yさんとしては、メンバーからの話も聞いていたはずですし、十分な説明もしていたつもりです。しかし、その後さらに話してわかったことは、メンバーが「理屈だけで一方的に抑えつけられてきた」と感じている気持ちの問題でした。確かに理路整然と説明され、そのうえでの指示命令でしたが、メンバーにとっては大変な作業もあり、そのことに反論してもやはり理屈で返されてしまうので、そんな自分たちの気持ちがリーダーには理解されていないという不満が積み重なっていたのです。

その後Yさんが心がけるようにしたのは、今までのようにきちんと説明することは続けながら、それにプラスしてメンバーへの期待、引き受けてくれたことへの感謝やねぎらいなど、相手の気持ちに寄り添う言葉をかけることでした。仕事がひと区切りつけば、たまには食事やお菓子をご馳走することもありました。それを始めてから、メンバーは大変な仕事であっても前向きに取り組んでくれるようになり、たまに出てくる不満などについても、チーム内で話し合って解消することができるようになりました。

人は理屈だけでは納得しない

この例のように、チーム運営上の大切な要素として、「メンバーの納得感」があります。これがあるかないかによって、メンバーの姿勢や行動は大きく変わってきますが、理屈が正しければ納得するかといえば、決してそうではありません。しかし、例えば技術者や研究者など、論理志向の強い職種では、何でも筋道を立てて理屈で解決しようとする人が多く、悪く言えば理屈っぽいところがあります。もちろん他の職種でも同じような人はいます。

そういう人は、チーム運営やメンバーとのかかわりにおいて、何か調整が必要な場面や、とにかくやってもらわなければならないようなことに遭遇した時には、論理的な説明で相手を納得させようとする傾向があります。しかし、人というのは、いくら理屈が合っていたとしても、感情では納得できないことが多々あるものです。

例えば「遅刻をしてはいけない」は間違いなく正論ですが、それを言ってくる相手が遅刻の常習者だったとしたら、たぶんほとんどの人は納得できないでしょう。反対に、これを時間厳守の人から言われれば、それで納得しない人はいないでしょう。どんなに難しい依頼でも、「この人に頼まれたら断れない」といったことや、どんなに簡単なことでも「この人の言うことはやりたくない」といったことは、避けて通れない人間の感情です。

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