UACJが異例の「人事撤回」会見に至った事情 登壇した2人は退任、筆頭株主に恨み節も

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さらに混乱に乗じて、旧村上ファンド出身者が立ち上げた投資ファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネージメントが株式の6.79%を取得していたことが判明(その後9.8%まで買い増し)。その中で、UACJ経営陣は早期に事態を収束させる必要性を感じたようだ。

今回の会見で明らかになったのは、古河電工とUACJの深い溝だ。

2月末に人事案を公表した時点では「(古河電工に)ご理解いただけるつもりで発表した」(山内会長)。実際、UACJは昨年12月以降、人事案も含めて古河電工とやり取りを続けてきたという。ただ、結果的には古河電工と対立する事態となり、山内会長は「人と人、会社と会社が理解し合うことは難しかった」と、無念さをにじませた。

古河電工に対する恨み節

他方、会見では、今回の古河電工の人事案再考の提案に対し、山内会長が反論する場面もあった。山内会長はこれまでの4年半を振り返り、「着実の利益を上げ、配当を実施してきた」と強調。業績低迷を招いたと言われる、タイの缶材工場における1000億円近い増産投資についても、「われわれは中長期的な意味合いで投資してきた。ただ、古河電工からは短期的に見るとリスクという考えがあったのだろう」(山内会長)と述べた。

さらに、「会長がいて、副会長がいて、社長がいる会社はたくさんある。3人の代表取締役がいること自体がガバナンスも問題とはとらえていない」(同)と発言する場面もあった。

「保身ではない」。会見中、山内重德会長は何度もこのフレーズを口にした(記者撮影)

会見の終盤、「今回の人事変更に納得しているのか」と記者に問われた山内会長は「納得しているので、この会見の場に出ている」と回答。相談役で残ることについては、「院政をしいたり、隠然たる力を及ぼすのは大嫌い」と前置きした上で、「石原新社長に適切なアドバイスをしていく」と語った。

今後は石原新社長をトップに、古河スカイ出身の中野隆喜専務、住友軽金属出身の種岡瑞穂専務がサポートする体制となる(3人が代表権を持つ体制は変わらない)。またガバナンス強化のため、社外役員2名が就任し、社外監査役も見直される。古河電工は「適切なコーポレートガバナンス体制の下、企業価値の向上が実現することを期待し、株主の立場から見守ってまいりたい」とコメントを出した。

今回の対立は、「古河対住友」といった単純な構図ではない。ただ筆頭株主の古河電工との深い溝は残ったまま。業績低迷が続けば、いつまた繰り返されるとも限らない。今後新体制は、目に見えるかたちで成果を示す必要がありそうだ。

木村 秀哉 東洋経済 記者

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きむら ひでや / Hideya Kimura

『週刊東洋経済』副編集長、『山一証券破綻臨時増刊号』編集長、『月刊金融ビジネス』編集長、『業界地図』編集長、『生保・損保特集号』編集長。『週刊東洋経済』編集委員などを経て、現在、企業情報部編集委員

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又吉 龍吾 東洋経済 記者

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またよし りゅうご / Ryugo Matayoshi

2011年4月に東洋経済新報社入社。これまで小売り(主にコンビニ)、外食、自動車などの業界を担当。現在は統括編集部で企業記事の編集に従事する傍ら、外食業界(主に回転ずし)を担当。趣味はスポーツ観戦(野球、プロレス、ボートレース)と将棋。

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