キーマンが明かす新幹線「札幌駅」問題の真相 利便性高い「現駅案」が負けた本当の理由

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大東案にすると、市の交通が抱えている問題も解決できるという。現在は札幌北インターチェンジを降りて札幌の中心に向かう創成川通(国道5号)が渋滞している。札幌市には国などと連携してこの道路を改良する計画があり、この道路は大東案の新幹線駅に直結する。

新幹線がやってくればJR札幌駅の役割はますます高くなる(編集部撮影)

吉川氏はこう主張する。「私はJR北海道に、東京駅八重洲口のように、1車線でもいいから一般車のレーンを造れと言っている。車いすの利用者を送迎できるように。そのほうが人に優しい駅になる。現在の札幌駅は不十分だ。新幹線は全国、海外からお客様が来る。優しい駅を造らなくちゃいけない」。

もう1点、吉川氏が懸念する点があった。現駅案では工事完了が2030年となっている。もし、オリンピック・パラリンピック招致が決まったら、新幹線は1年前倒しで完成させる必要がある。つまり、逆に言えば、札幌駅が2030年まで完成しないということはオリンピック・パラリンピック誘致の足かせになりかねないからだ。

「人に優しい」駅になるか?

吉川氏からは大東案について、会議で述べられず、報道もされていない利点を聞くことができた。スムーズな乗り換えよりも、札幌駅のあり方や市内の交通渋滞の改善といった点を考慮した大局的な判断と言えそうだ。オリンピック・パラリンピックに向けて、VIP用待合室は必要かもしれない。

最後の質問。北海道新聞の4月1日付の記事にある「官邸に近い地元国会議員」とは、吉川氏のことなのか。この質問について、吉川氏は「記事の議員が私かどうかは否定も肯定もしません」としたうえで、「私は官邸に近いとか、重鎮ではないですよ」と語った。謙遜かもしれないが。

気掛かりな点があるとすれば、動く歩道やエスカレーター整備の実現性を危ぶむ声があることだ。JR北海道の提案についてある関係者は、「新幹線と在来線の乗り換えのために跨線橋を設置する予定になっているが、幅が狭く10mおきに連絡階段があるため動く歩道の設置は不可能。在来線プラットホームの幅が狭く階段とエスカレーターを並べて設置することもできない」と指摘する。もし動く歩道やエスカレーターが整備できないなら、吉川氏が望む「人に優しい駅」ではない。JR北海道はすみやかに設計・仕様を確定、公表して、利用者である国民、北海道民、札幌市民を安心させてほしい。

杉山 淳一 フリーライター

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すぎやま じゅんいち / Junichi Sugiyama

東京都生まれ。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社でパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当したのち、1996年にフリーライターとなる。IT、PCゲーム、Eスポーツ、フリーウェア、ゲームアプリなどの分野を渡り歩き、現在は鉄道分野を主に執筆。鉄道趣味歴40年超。全国の鉄道路線完乗を目指してコツコツと旅を重ねている。鉄旅オブザイヤー選考委員。基本的に、列車に乗ってぼーっとしているオッサンでございます。

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