小田急「ロマンスカー」新ダイヤで沿線に明暗 喜びの海老名、通過の向ヶ丘利用者は「困惑」

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3月17日から走り始める新型ロマンスカー70000形「GSE」の車内(撮影:梅谷秀司)

3月17日は小田急沿線各地に様々な悲喜こもごもをもたらす日になりそうだ。無論、特急ロマンスカーにとっても歴史的な日となる。朝ピーク時の特急は新宿行きが「モーニングウェイ」、千代田線直通が「メトロモーニングウェイ」にそれぞれ改称される。平日朝の新宿駅発下り方面の特急増発も実施される。小田急線の特急通勤は平日朝上りのみならず、平日朝下りでも盛んであり、増発は通勤利用にとっても福音である。

土休日には、千代田線と片瀬江ノ島駅間を直通する初めての定期特急「メトロえのしま」が新設される。他方、消費者にとって負担増となる料金改定も実施される。小田急線特急停車駅―箱根湯本駅間を通しで乗車する場合は、小田急線の特急料金に200円が加算されることになる。

小田急にとっては、ライバルの動きも気にかかる。京王電鉄は2月22日から夜に新宿駅→京王八王子駅間・橋本駅間で有料座席指定列車「京王ライナー」の運行を開始した。京王電鉄広報部は「『京王ライナー』は運行開始から多くのご利用をいただいている。さらに修正を加えながら、サービス向上を進めたい」と語る。今後、朝上り列車や都営新宿線への直通列車も検討されるだろう。

新宿駅―永山駅・多摩センター駅間で競合する小田急はロマンスカーは運行せず、一般列車の利便性向上を打ち出して対抗する。多摩線でのロマンスカーを復活させるかどうかは別として、多摩線ユーザーを含むより多くの人に利用されるよう、新百合ヶ丘駅に停車するロマンスカーをさらに増やすなどダイヤを磨き上げる余地はまだある。

特急ダイヤが沿線に与える影響

ロマンスカーは小田急線ユーザーのうち、約1.7%(=特急の1日平均利用客数約3万6000人÷小田急線1日平均輸送人員205万人。いずれも2016年度)の人たちに利用されており、地域経済を支える重要な足となっている。

2011年の東日本大震災直後のロマンスカー運休では、箱根の自治体や観光産業などがロマンスカーの早期運転再開を要望し、運転再開日の2011年4月16日には箱根湯本駅で自治体や町民らが到着するロマンスカーの出迎えを行った。ロマンスカーが沿線住民や地域から愛されていることを示す象徴的な出来事として歴史に刻まれた一方、ロマンスカーのダイヤがステークホルダーに大きな影響を及ぼすことを再認識させられる機会ともなった。

今後、小田急はロマンスカーのダイヤを変更する場合、ステークホルダーへの丁寧な説明を行う必要がある。一方で、沿線自治体や消費者も向ヶ丘遊園駅・新松田駅の「悲劇」を教訓として、日頃から鉄道に対する関心を深め、特急停車が維持されるよう利用促進に協力する姿勢が望まれる。

そして、小田急も海老名駅・本厚木駅連続停車の特急を基本とするなど利便性向上を進め、より気軽に利用できるロマンスカーを目指すことが企業価値向上につながるはずだ。ステークホルダー間の不断の対話こそが、「三方よし」のロマンスカーのダイヤをつくる最良の方策なのである。

大塚 良治 江戸川大学准教授

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おおつか りょうじ / Ryouji Ohtsuka

1974年生まれ。博士(経営学)。総合旅行業務取扱管理者試験、運行管理者試験(旅客)(貨物)、インバウンド実務主任者認定試験合格。広島国際大学講師等を経て現職。明治大学兼任講師、および東京成徳大学非常勤講師を兼務。特定非営利活動法人四日市の交通と街づくりを考える会創設メンバーとして、近鉄(現・四日市あすなろう鉄道)内部・ 八王子線の存続案の策定と行政への意見書提出を経験し、現在は専務理事。著書に『「通勤ライナー」 はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版)。

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