米金融危機、75兆円不良債権買い取り策は悠長過ぎる

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 世界的な金融危機が急速に深化している。リーマン・ブラザーズ破綻に続き、MMF(マネーマーケットファンド)の元本割れが取り付け騒ぎに発展。米政府のMMF安定化策発表で一応騒ぎは収束したが、今度は銀行預金が危うくなった。銀行よりも有利な商品への公的保護によって、預金からMMFへと貯蓄資金の大量シフトが起き始めたからだ。典型的パッチワークの展開と言える。

リーマン破綻では世界中の短期金融市場が震撼。中でも、銀行間のドル資金貸借市場はほぼ完全にマヒして、わが国のメガバンクですら調達が困難に陥った。いきおい、主要6カ国中央銀行はドルスワップ契約を締結、この市場凍結を少しでも氷解させようとしている。

リーマン破綻の直後、米政府は巨大保険会社のAIGを公的救済した。中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)の緊急融資付きだ。連銀に当座預金口座を設定していない保険会社に対し、連銀融資という禁じ手を使わざるをえなかった。

アメリカの対策は不十分

米政府は、最大7000億ドルの資金を投じて不良債権の買い取りを行う権限を与えるように議会に要請。買い取りは2年に限り、最も安値を提示した金融機関から買い取る「逆入札方式」をとるという。

バーナンキFRB議長は議会で買い取りのベース価格は、簿価と受け取れる説明をした。そうであれば損失全額を納税者が負担することになる。買い取りそのものは評価できるとしても、簿価だとしたら問題含みだ。しかも、本当は買い取りよりもやるべきことが別にある。

米政府が導入しようとしているのは、かつてのS&L(貯蓄貸付組合)処理の際に設置した不良債権買い取り機関、RTC(整理信託公社)の現代版だが、現在の危機は、そんな米国内の中小金融機関の経営危機ではない。巨大な銀行や投資銀行が軒並み経営危機に陥り、しかも、証券化手法によって危機の導火線は世界中にバラまかれてしまっている。率直に言って、2年を費やして不良債権を順次買い続けるというような悠長な対応では時間切れとなる。

日本でも90年代の金融危機の際、「共同債権買取機構」という日本版RTCが設立されたが、効果は限定的だった。金融機関の売却価格が簿価なのか、それとも時価なのかということで大論争にもなった。結局、機構が稼働しても、金融危機の拡大、深化の速さに買い取りが追いつけず、しだいに用をなさなくなった。

今回の世界的な危機の深化速度は、当時の日本の危機よりも速いだけではない。その範囲が広大なうえ、危機の震源地が基軸通貨国なのである。通貨システムが震撼せざるをえない性格を有している。

具体的には、通貨システムの背後と密接な関係にある各国の外貨準備にも微妙な影響が生じ始めている。米以外の公的当局が保有する米債券残高(おもに外貨準備、ニューヨーク連銀カストディ勘定)の四半期ごとの推移を見ると、2008年はしだいに保有額が減ってきている。米金融危機の主役級となったファニーメイ、フレディーマックというGSE発行債(いわゆるエージェンシー債)の残高が急減していることが主因ではあるが、このままでいけば、米国債との合計保有額は第3四半期から前期比減に転ずるおそれがある。GSE債にとどまらず米国債の保有額の減少ともなれば、米経済への信認は大きく低下する。

一方、主に米国から海外に流出した短期資本は、米国に逆流している。これは、取引先のリスク、すなわち、カウンターパーティリスクに怖気づいた投資資金の回収の動きに基づいている。対ドルのユーロ相場が続落している背景にはこの逆流現象がある。投資の流出は、その国にとって流動性の低下となって景気を悪化させていく。

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