脳梗塞で人生に絶望、何が彼を救ったか? 介護とは「生きててよかった」瞬間の創造だ

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Aさんは6カ月にも及ぶ入院生活を終え、久しぶりに自宅に戻りました。しかし、それを喜ぶAさんの姿はありませんでした。Aさんは「これからどうやって生きていけばよいのだろう」という不安を抱えていたのです。

それでもAさんは、介護施設に通うことは頑なに拒みました。そのまま、ずっと自宅に引きこもるような生活が6カ月ほど続きました。この期間、Aさんが接する他者は、介護職と親族のみとなってしまっていました。実質的にAさんは、ほとんどの時間を1人で過ごしていたのです。

変わり始めたきっかけは刺身

ある日、入浴介助をしていた介護職が、Aさんを介護施設に誘い出すことに成功します。この介護職は、介護の仕事をはじめる前は板前をしていた人です。Aさんが刺身好きと聞いたこの介護職は「新鮮な魚をさばくから」とAさんを誘ったそうです。

リハビリを重ね少しずつ回復(写真:筆者提供)

はじめのうちは、Aさんは、そうして介護施設へ通いでやってきても、周囲と打ち解けることはありませんでした。

しかし、自宅から外に出る機会が増えるにつれて、少しずつAさんに笑顔が見られるようになってきたのです。そしてAさんは、他者から話しかけられての笑顔だけでなく、自ら冗談を言って笑顔になることも増えていきました。

そのころ、介護職との対話の中で、Aさんは「これからどう生きていくのか」というテーマに触れるようになりました。また、自分が倒れてからの人生を振り返り、当時の心境についても詳しく話すようにもなったのです。

Aさんは「当時は何もかもが嫌になっていた。しかし、いろいろな人に応援してもらい、今は感謝の気持ちでいっぱいである」ということを頻繁に口にするようになりました。

Aさんは、自身に起こったことを受容しつつありました。そしてAさんは、介護職に対して「自分が死ぬまでにやりたいこと」を伝えました。それらは①行きつけだった新橋の店に行くこと、②神輿を担ぐこと、③結婚すること、でした。

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