「大雪時の間引き運転は不要」元運転士が激白 鉄道の大雪対策に必要な投資は進んでいる

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ここでわたくしの雪の日の運転についての体験談を少々述べたい。雪の日の運転で何が問題なのか。「視界が悪い」「信号が見えない」などいろいろ挙げられるが、一番の問題は「ブレーキが利かない」ことだ。

私が運転士だったのは1980年代初頭から1990年代の終わりころまでの17年間。担当した電車は4世代あった。

第1世代:空気ブレーキだけの電車
第2世代:昭和30年代初頭からの全電動車編成
第3世代:昭和40年代初頭に登場した、複巻電動機を使った回生ブレーキ(電車に搭載のモーターを発電機として機能させ、運動エネルギーを電気エネルギーに転換し、架線を経由して他の電車に供給)を装備した電車
第4世代:VVVFインバーター車

このなかで雪の日でも問題なく走れたのは第2世代までだ。第1世代は京王井の頭線のような駅間距離の短い線区では、繰り返される摩擦ブレーキによって雪が溶かされ、大雪の中でもスリップせず普通に停止した。第2世代も止まる間際まで安定した発電ブレーキが利いて、これもまったく問題なし。

私が在籍していた期間は、第3世代に当たる、複巻電動機の車両を担当する機会が圧倒的に多かった。このタイプの電車の回生ブレーキは元々不安定だったので、自分が担当するときは最初から回生を「切」として運転していた。多くの運転士は回生がなければ減速できないと勘違いしていたが、第1世代の電車が電気ブレーキを持たずに問題なく減速できているのと同じ論理だ。大雪の時は回生を切って運転して良好な結果を得ていた。このため「この運転方法が降雪時の運転方に有効である」と上申したが、「基本動作から逸脱する行為であり、処分の対象である」と検証することもなく却下されてしまった。この世代の電車は今の京王には残っていないが、今でもこの点が心残りだ。

寒冷地仕様の制輪子を!

雪の日の運転における最大の心配事は、雪による電車の制動(ブレーキ)力低下だ。過去には1986年の西武新宿線・田無駅、記憶に新しいところでは2014年東急東横線・元住吉駅での列車追突事故がある。これらは、大雪の日に発生した追突事故で、いずれのケースも雪による制動力低下が原因だ。低温かつ湿潤という環境が制動力の低下を招く。

E233系の制輪子(筆者撮影)

では、雪国の電車はなぜ追突しないのか。その理由は、使っている制輪子(ブレーキシュー)の鉄分の含有率が高く、低温環境下でも摩擦熱の発生が制動力の低下を防いでいるためだ。

近年の電車のブレーキは回生ブレーキを多用している。直流電化区間では、発生した回生電力を吸収してくれる電車が近くにいないと回生失効となり、回生ブレーキは不安定というイメージが定着していた。しかし最近は、変電所に回生電力吸収装置を設置する例が増え、この定説は覆されつつある。昔に比べれば雪の影響を受けにくくなった。

次ページ指令員の能力向上も重要
関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事