「大雪時の間引き運転は不要」元運転士が激白 鉄道の大雪対策に必要な投資は進んでいる

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間引き運転は事業者サイドに都合の良い方法で決着を図っているに過ぎない。1月22日の大雪時における鉄道の様子をテレビで見て、怒りさえ覚えてしまった。

「電車が止まらないうちに」と仕事を早々に切り上げて駅に行けば、すでに「間引き運転」が始まっていて大混雑。入場規制のために駅構内にすら入れない人たちが、電車利用をあきらめて並行する路線バスのターミナルに行けばここも大混乱。タクシー乗り場も大行列。ニュース映像の渋谷駅の様子は「3.11」のそれを思い出させられ、この程度の雪で誰が悲惨な状況を作り出しているのかと呆れるばかりだった。

そもそも、雪の影響で電車が運行不能になる要因はいくつか挙げられる。

信越線のような豪雪地帯なら、大量の雪を電車が抱き込んで走行不能に陥ることもあるが、積雪20cm程度なら、間を空けずに電車を運行していれば雪は溜まらず、そんなことは起きない。

電車のパンタグラフに雪が付着し、その重みでパンタグラフが下がり架線との間に電気的な火花が発生して架線を切ってしまう「架線溶断事故」。これは止まっている時間が長いと起きるもので、電車を走らせていれば走行時の振動や風でパンタグラフ上の雪は飛ばされる。

凍結防止の終夜運転は「間引き運転」と矛盾

2016年1月18日に京王電鉄で起きた架線溶断事故は、車両基地内で長時間停車中の電車が引き起こしたもので、営業線を走行中の電車ではこれまで1件も起きていない。関係者は、そもそも雪が堆積しにくくなるように、シングルアームパンタに交換した経緯すらも忘れている。

これらの危険は、間引き運転による輸送の混乱(輸送力不足による停車時間増大、ホーム混雑による進入不能、車内急病人その他のトラブル等)でかえって増大してしまうのだ。ポイントの不転換も過去には多数あったが、近年は東京でも電気融雪器がほぼ100%導入され、非常に起きにくくなった。

雪の日に電車を一晩中走らせて凍結防止を図ることが一般化しているが、最初に始めたのは西武鉄道、昭和20年代のことだそうだ。今ではどこの鉄道事業者も行っている。スノープラウ(除雪を目的として車両前方に取り付ける板状の器具)を装備していない東京の電車でも、ある程度の一定間隔で電車を走らせれば除雪効果があることが知られている。この意味からも間引き運転は逆の結果をもたらす。間引いてはならないのだ。

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