介護離職をすると、自分の老後が危なくなる 「親への気持ち」は痛いほどよくわかる

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1つは高齢者向け施設へ入居することです。香里さんの母の場合、要介護3ですから、24時間介護サービスが受けられる特別養護老人ホーム(特養)への入居も可能。入居時の費用負担はなく、毎月の支払いは5万~15万円が目安ですから、母の年金で支払うことができそうです。

もう1つは介護保険の「在宅サービス」をフル活用して在宅介護をすることです。要介護3の場合、月単位で受けられるサービスの目安は、週3回の訪問介護、週1回の訪問看護、週3回の通所系サービス(デイサービスなど)、毎日1回の夜間の巡回型訪問介護、2カ月に1週間ほどの短期入所、福祉用具の貸与などとなっています。

「でも……」。と香里さんは戸惑います。

「介護サービスをフルに使っても、誰かがいなければ母は生活できないのでは? たくさんサービスを受けるとどれだけおカネがかかるかわからないです。今は仕事して、介護して、毎日ドタバタです。あれこれ考える時間がないし、愚痴を聞いてくれる人はいても相談できる相手はいないし、何かしら手配するには会社を休まなければならない。もう頭がいっぱいで、辞めるしかない」というのです。

焦って結論を出してはいけない

私も介護の経験があるので、すごく良くわかります。どのような介護をするかは置かれている環境や親の性質、介護する人の気持ちにもよりますが、確実に言えるのは、「慌てて結論を出さないほうがいい」ということです。

高齢化による医療費の増加、病床数の不足、介護職員の不足などが深刻化していることもあり、国は医療と介護を地域で担うという方向性を打ち出しています。地域で担うということは、つまり、在宅医療や在宅介護を増やしていく、ということです。

「そうなればますます家族の協力なしではやっていけない」ということになるのですが、同時に国が力を入れているのが、介護離職の防止です。介護離職は年間10万人以上に上っており、社会的な損失も計り知れません。そこで国は「介護離職ゼロ」を目指し、「育児・介護休業法」を拡充しています。

私は香里さんに助言しようと、次のようなプランを考えました。

まずは会社に「介護休業」を申請します。介護休業とは、要介護状態の家族1人につき、通算93日まで休業を申請できるもので、最大3回に分けて休むことができます。ある程度の日数があるので、どんな介護をするのがいいか、ケアマネジャーを交えてじっくり相談、検討し、必要な手続きをとることができます。

また香里さんの母の状態が落ち着くまでは、「短時間勤務制度」を利用して、一緒にいる時間を長くします。「深夜労働や時間外労働を回避」することも可能ですし、通院院の際には「介護休暇」を利用することもできます。

どうでしょうか? このような制度を利用すれば、介護の態勢をじっくり整えることができそうですよね? 少しの間、仕事から離れることによって気持ちも落ち着き、「どんな介護をするのがいいのか」「仕事と介護を両立できるか」を冷静に考えたり、両立させる方法を見つけたりすることができるのではないでしょうか。

大切な親が要介護状態になるのは子にとっても切ないものです。しかし高齢になれば誰にでも起こりうる問題です。香里さんは「自分が犠牲になってもいい介護をしてあげたい」という思いが強いですが、逆に親の側からすれば、「なるべく迷惑をかけたくない」という思いもあります。すべての人が介護離職を免れるとは思いませんが、避けられる人もいるはずです。介護休業法を活用してじっくり準備する、冷静に考える、ということが大切です。なお介護休業法の詳細については回を改めて詳しくお伝えします。

井戸 美枝 ファイナンシャルプランナー

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いど みえ / Mie Ido

神戸市生まれ。 関西と東京に事務所を持ち、年50回以上搭乗するフリークエントフライヤー。講演や執筆、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題をはじめ、年金・社会保障問題を専門とする。『世界一やさしい年金の本』(東洋経済新報社)、『知らないと損をする国からもらえるお金の本』(角川SSC新書)、『現役女子のおカネ計画』(時事通信社)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!』(日経BP)『親の終活、夫婦の老活 インフレに負けない「安心家計術」』(朝日新書)など著書多数(ホームページ​経済エッセイスト井戸美枝FBページ)。

 

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