「利己」にあふれた人や会社は「利他」に勝てない 現場も経営も知るリーダーよ、立ち上がろう
田村:どの会社にも使命はあります。自社の使命を社員一人ひとりが果たそうとする思いで仕事に取り組んだら、世の中の流れもきっと変わるはずです。
最終的には利他が勝つ
他方で、組織内でブレークスルーを生むには、リーダー自身が覚悟をもたなくてはならない。特に現場を知っていて、経営側の立場も知っている中間層のリーダーが立ち上がらないと、組織改革は成功しないと思いますね。
野中:かつては、大局観と現場がミドル層を中心に回転していく「ミドル・アップ・ダウン」が成立していました。ここでいうミドルとはプロジェクトリーダーであり、プロデューサーです。しかしながら、戦略的なポジションで組織改革を行っていたミドルが、いま最も疲弊している。ミドルが活力を失えば、彼らの背中を見ている第一線の社員はますます塞(ふさ)ぎ込んでしまう。
いまの若者は社会のために何かをやろうという気持ちが非常に強い、といわれています。しかしその思いが十全に発揮されないのは、部下のチャレンジを促すプロジェクトリーダー的なミドルの不在が影響しているのかもしれません。逆に今後、ミドル層が活力を取り戻せれば、個人の主観が相互主観性にまで高められ、大きなうねりを生む原動力となります。
田村:『キリンビール高知支店の奇跡』が多くの人に支持されたのも、強いミドルを求める声と連動しているからかもしれません。
野中:不確実な時代にミドル・リーダーに求められるのは、具体的な現象の背後にある本質を掴み取り、普遍的なコンセプトに結び付けて、最後に「こうじゃないか」とジャッジメント(判断)を下す能力です。しかし個別個体に存在する関係性のなかで、ジャストライト(Just Right)の判断を下すのは容易ではありません。リーダーの実践知を組織内で共有するには、実践の只中でリーダーが共体験しながら徒弟的な関係のなかで育成するしかない。それにより、個別具体の暗黙知を形式知、普遍へとスパイラルを生み出す土壌が組織内で醸成されるのです。
何より「将来はこの人のような存在になりたい」と憧れを抱くようなロールモデルとなる社員が組織の中心になり、共体験を通じて部下を育てるのが、本当の意味での利他主義の経営であり、企業が社会に対して行う最高の善ではないでしょうか。
本来、日本企業は人材を育成するヒューマン・セントリック・カンパニーの集まりだったのですが、いつの間にかいびつな形態へと変容してしまった。これを元へ戻さなければいけない。そのときキーとなるのが実践知であり、その根底にあるのが利他主義です。しかも、脆弱(ぜいじゃく)な利他主義ではなく「最後に勝つ」という知的体育会系のしたたかさを帯びていないといけない。
田村:本書はまさに「絶対に勝つ」という願いを込めた本です。より多くの人にキリンビールを飲んで喜んでもらうという理念を掲げた以上、負けは許されない。その意味で、人を育てること、お客さまに最高の満足を提供すること、そして勝つことは、同一のコンセプトなんです。
野中:それこそ知的体育会系の利他主義ですね。利己主義と利他主義は日々葛藤しますが、最終的には利他が勝つ。最近は、金を儲ける点では長(た)けていても、フィロソフィー(哲学)に欠けるリーダーが散見されます。組織の上に立つ者は、人間を第一に考え、自社と社会の両方にとって有益な共通善の哲学をもつ賢慮のリーダーが求められると思います。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら