北朝鮮が「大人しくなった」のに惑わされるな 南北朝鮮の関係改善は一時的なものだ

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この戦略はこれまでにも、より広範にわたる問題に直面している。1つには金正恩のふるまいに対する不満から、中国が大方、国連の制裁に準じている一方で、北朝鮮政府にとってのライフラインとしてのウラジーミル・プーチン率いるロシアの存在が大きくなりつつある。

依然として、韓国が目指すのは、一方的な行動を取らないよう米国を説得することであるのは変わらない事実である。ドナルド・トランプ大統領は昨年のソウル訪問中に軍事境界線を訪れることができなかったが、韓国政府側としては、ヘリコプターから韓国の首都が北朝鮮との国境からわずか35マイルの位置にあることを認識させることができたと確信している。

韓国人たちが抱き続ける「懸念」

これは、ソウルが金正恩の攻撃の射程圏内にあるということであり、米国防総省の見立てでは、核兵器の配備がなくても、韓国側に1日で2万人もの犠牲者が出ると指摘されている。つまり、戦争を再び発生させかねないリスクを犯すべきではない、と韓国側がトランプに示したことに何ら驚くことはないのだ。

韓国とトランプ政権のいずれもが、対話により北朝鮮政府の核計画の実施を停止させるのに使える政治的なツールを求めているのは明らかだ。昨年の韓国訪問でトランプが、韓国が南北朝鮮の再統一を求める動きの取り下げに応じる可能性があるか、また、暗に、金政権の解体の可能性についても文大統領に尋ねていたと報じられている。

韓国当局者によれば、その可能性は低い。その実現の可能性が高いと信じる人が少なくても、韓国は南北の再統一への政治的な取組を依然として続けるということだ。北朝鮮でも同様の再統一の文言が使用されているが、金政権下においては、おそらく侵略の結果としてのみそれが実現されることになるとの分析が多くなされている。

韓国が米国との同盟関係から大きく離れようとしない理由の1つがこれである。韓国のアナリストの多くがもつ主な懸念は、朝鮮半島から米軍が撤退、または、北朝鮮からの核攻撃を恐れて、米国が北朝鮮に関わる問題に関与しなくなることで、韓国が脅威にさらされることだ。

外交による韓国と北朝鮮の関係の改善により、北朝鮮のサイバー攻撃やより深刻な行為による冬季オリンピックへの妨害行為の可能性をほぼ排除できたのは間違いない。今後数カ月に予定している兵器の実験を慎むよう金本人を説得できた可能性もありえる。だが、根底にある問題の解決とそれは関係のないことだ。

著者のピーター・アップス氏はロイターのグローバル問題のコラムニスト。このコラムは同氏個人の見解に基づいている。

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