JR東日本が英国で「遅延」を解消できない理由 日本でのノウハウがすぐ生きるとは限らない
つまり、鉄道会社が線路改良を望んでも、自社で行うような迅速な対応で線路や信号の改良が進められるわけではない。英国内の鉄道インフラは日々改良が加えられているものの、その優先順位は政府が決定することで、鉄道会社は既存のシステムの中で最善を尽くしていくしかない。
実際のところ鉄道インフラ老朽化や、複雑で無駄の多い線路配線などラッシュ時の遅延の原因となっている部分は英国内各所に散見される。ラッシュ時の定時運行率は、鉄道側が示している数字よりも低いという調査記事もある。
英紙ガーディアンの記者は、通勤途中の地元の駅に掲示されていた定時運行率82.5%という数字を見て、明らかにそれはおかしいと感じ、2016年より通勤時に利用した列車の状況を記録した。すると驚いたことに、1月から4月半ばまでの4カ月間で、予定通りの時刻に到着しなかった遅延時分の積み重ねが24時間にも達したのだ。定時運行率の計測で「定刻」とみなされる5分以内の遅れで運行した列車は、この記者の調査では37%だった。
細かな改良を積み重ねて
では、ポスターに描かれた82.5%という定時運行率は真実ではないのかというと、これは1日あるいは1週間のトータルにおける数値で、遅延が少ない夜間や週末などもすべて含めた数字だった。ポスターの内容はうそでも間違いでもないものの、通勤時間帯にほぼ連日のように発生する遅延を巧みに隠していたことになる。数値以上に多くの人々が遅延に対する不満を感じていたはずで、この記者が実際に体験していた連日の遅れは真実だったのだ。
これは今回JR東日本が関わるウェストミッドランズ・トレインズ社とは別の鉄道会社の話ではあるが、決して他人事として無視することはできない。
もしJR東日本が、列車運行に関する同社の経験や知識を英国で生かすのであれば、遅延や運休を最小限に食い止められるように細かい改良を少しずつ進めていくことが、重要な課題の一つとなるであろう。前述した乗務員の交代要員配置など、自社で行うことができる対策はもちろん、場合によっては英国政府へ働きかけてインフラの整備改良を進めることも必要となってくるかもしれない。
日本の鉄道会社=緻密で正確な運行という図式が頭を巡り、私たち日本人はついつい、そういった面における改善を簡単に期待してしまうものだ。だが、実際にはこれからフランチャイズ契約満了の2026年までの間にコツコツと改良を重ね、同社が2026年以降の次期フランチャイズを再契約できるように持っていくことが重要になるだろう。
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