新幹線の「亀裂」はなぜ発見できなかったのか 専門家がわかりやすく解説する技術的背景
筆者の学生時代からの友人で、航空会社の整備畑に30年以上勤務した男がいる。彼は「航空機は故障率が高いので、ダイヤ統制部門は整備士の意見を最重視するが、鉄道は故障率が低いので周囲の理解を得にくいのでは」と話していた。また今回の重大インシデントは、2つの鉄道事業者にまたがっており、コミュニケーションの壁について検証すべきである。
異常検知のため台車にセンサーを付けるべきという意見もあるが、台車枠に亀裂が入る確率と、そのセンサーが故障する確率を比較すると、その目的だけのセンサーは意味がないような気がする。
最近はセンサー技術が進歩したので、温度や振動などからさまざまな台車の異常(例えば軸受の潤滑不良)を検知することは可能で、異常の可能性の1つとして台車枠の亀裂も示し、床下点検を促すシステムが現実的であると思う。
亀裂を見たことがない技術者が増えている
新幹線の線路規格や車両限界の基礎になっているのは戦前の弾丸列車計画で、そのルーツは南満州鉄道である。1934年に運転開始した特急「あじあ号」は、蒸気機関車が客車7両を牽引し、大連―新京(現・長春)間約700kmを最高時速120kmで走破した。満鉄に勤務していた大先輩の話によると、途中の奉天(現・瀋陽)駅に停車中、機関車はもちろんすべての客車にも1人ずつ(両側必要なのでたぶん2人)検査員を配置して打音検査を行い、異常がなければテストハンマーを頭上にかざし、全員のテストハンマーが上がったことを確認して発車合図をしていたそうである。
この方法は、鉄道車両を構成する機械部品の品質が低かった頃、疲労破壊が起こることを念頭に置いて決められた方法である。現在では機械部品の品質が向上し、限られた部品だけ定期的に検査すればよく、日常の打音検査は不要になった。一方、機械部品の亀裂を見たこともない技術者が増えていることも事実である。
少なくとも、車両保守担当職員は打音検査の音を判断する耳が必要で、そうでなければセンサーの誤検知も見抜くことはできない。高度な検査システムを構築することはもちろん重要だが、異常を見抜く目や耳を養うことを軽んじてはならないと思う。
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