新幹線の「亀裂」はなぜ発見できなかったのか 専門家がわかりやすく解説する技術的背景
今回亀裂が入ったのは、やはり溶接の“二番”の部分で、ある意味で教科書通りの亀裂発生である。台車枠の下側は荷重により常に引張応力が発生し、また軸バネの付け根の部分は応力集中(くびれた部分などに力が集まること)しやすく、そこに溶接後の引張残留応力があったとすれば、材料の組織にとって悪条件が重なる。運輸安全委員会の調査でいずれ明らかになることだが、溶接後の応力除去焼なましがどのように行われたか、亀裂発生のメカニズムを解明するうえで重要な要素だと思う。
なお、亀裂が発見される前に異臭や異音の報告があったことから、歯車箱や継手の異常が亀裂の引き金とする報道があるが、それは考えにくい。力学的にその程度のことで壊れるならば、台車として使い物にならない。筆者の推定では、まず亀裂の進展により側バリが逆“へ”の字に変形、その下の軸箱が台車中心から離れる方向に変位、本来向き合っているはずのモーター軸と歯車軸がレール方向に変位した結果、両者を結ぶ継手が振り回されて破損、内部のグリースが飛散したものと考えられる。
異臭や異音は日常茶飯事
今回は小倉駅発車時(運転開始の約20分後)から、走行中の車内で異臭や異音が何度か報告されたようだが、このような報告は日常茶飯事で、そこから重大問題を発見して適切に対処するのは簡単ではない。マスコミが結果を見てから関係者の対応を叩くのは、誤解を恐れず言わせていただければ“後出しジャンケン”である。筆者はメーカー在職中、ある鉄道事業者の「床下から煙が出ている」という一報で現場に駆け付けたが、結果は線路際の焚き火の煙だったことがある。
一連の対応における問題点を考えると、岡山駅から車両保守担当者が添乗して13号車で“うなり音”を確認、その状況は東京の総合指令所の指令員に報告されるも、運転継続の判断が下されてしまったことである。新大阪停車中に床下点検を実施していれば正確な判断ができたはずである。
12月27日に開かれたJR西日本の記者会見では、車両保守担当者の「安全をとって床下をやろうか」という発言が、別の問い合せと重なり指令員が聞き取っていないこと、指令員は点検の必要があれば車両保守担当者が実施する旨を明確に伝えてくると認識していたことが明らかになった。
その背景には、判断を相互に依存しがちな意識が存在している。
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