部下の長所を引き出すのが上司の重要任務だ エディー・ジョーンズ氏の「コーチング」極意
――ただ、一人ひとりの性格や能力を見極めるのは簡単でありません。
とにかく会話を積み重ねるしかありません。飲み会だけでなく、ランチや廊下ですれ違ったときなど、どのような状況でも可能なはず。会話を通じて相手を観察し、学ぶことができる。
世界の優秀なリーダーはコーヒータイムなどに自ら部下へ近づいて意見を聞いたり、アドバイスしたりしています。日産自動車のカルロス・ゴーン会長は社長の座に就いてから約3週間、ひたすら社内や工場を歩き回ってどのような人が働いているのか、どのような問題を抱えているのか見つけることから始めたといいます。
――NHKの番組で、目黒学院高校のラグビー部に対して指導する様子が取り上げられました。ディフェンスの際に選手どうしが声を掛け合う大切さを丁寧に教えていたのが印象的です。
教え込むには時間がかかります。多くの人たちがスマートフォンを通じてコミュニケーションを行う時代。イングランド代表も最初はそうでした。でも、ラグビーの試合中にスマホでコミュニケーションをすることはできませんよね。
顔を見て会話をすることが重要
――コーチと選手、あるいは選手間でも「フェイス・トゥー・フェイス」のコミュニケーションが従来にも増して重要になっているのですね。
大事であることは昔から変わっていません。ただ、スマホがあるため、コミュニケーションが不自然な形になってしまいました。
実は、イングランド代表チームのスタッフ間でもコミュニケーションの改善に取り組んでいます。2人のスタッフが互いにメールを送り付けるのではなく、顔を見て会話しようという取り決めを交わして実行に移したら、関係がよくなりました。
この場所へ来ようとスターバックスの前を通りかかったときに客を見たら、顔を見ながら話しているのはひと組だけ。ほかの人たちは皆、2人で来ていてもスマホをチェックしていました(笑)。
――日本代表のHC就任当初は、代表よりもふだん所属しているトップリーグなどのチームを第一に考える選手が多かったそうですね。
ラグビーにかぎったことではありません。日本は自分の会社が1番であり、会社以外の人とは知見などを共有したがらない社会。実は共有したほうが視野も広がるのですが……。
もっとも、イングランドの選手にもそうした傾向はありました。代表チームの初招集時、選手に対して所属するクラブチームのジャージを着用してくるように伝えました。最初のミーティングには各選手が異なるジャージを着て参加しました。
ミーティング終了後、選手にはジャージを脱がせてイングランド代表のジャージに着替えるよう命じました。「これからは所属チームのことではなく、イングランド代表として同じ考え方を共有し前へ進もう」と呼びかけたのです。
所属チーム優先といった閉鎖的な思考を打破するには、なによりも代表チームがしっかりと考える必要があります。
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