「RIZIN」が3年目にブチ当たったカネ以上の壁 実行委員長の榊原には20年前がよみがえる
ファイトマネーを払うべきか否か
クロンとの交渉が極めて難航しているとの報告を受けた榊原信行は、二者択一を迫られることになった。
柏木信吾が要求されたファイトマネーは、確かに高い。だが、無理をすれば出せない額というわけでもなかったからである。それよりもはるかに高額のファイトマネーを支払った経験が、榊原にはあった。
「高田さんと最初にやった時のヒクソンには、40万ドル払ってるわけです。総合格闘技に対する認知度はいまとは比べ物にならないほど低く、地上波での放送もない試合でも、それだけ払うことができた。RIZINはフジテレビさんが放送してくれますし、スポンサーもずいぶんついて下さるようになった。もし、どうしてもクロン・グレイシーをリングにあげなければならないというのであれば、100万ドルだって払う覚悟はあります」
問題は、クロン・グレイシーにそれだけの価値があるかどうか、だった。
ある、と榊原は考えていた。
「やっぱり、日本の格闘技ファンにとってグレイシーという名前は特別な意味を持っていますし、ぼく自身、お父さんとの付き合いもありますから特別な思い入れもある。できることならばRIZINのリングに上がり続けてもらいたいって思いは、当然ありますよ」
だが、大会全体を統括するプロモーターである以上、情に流されるわけにはいかない。「クロンの言っていることはよくわかるんです。ああ、さすがヒクソンの息子だなあとも思う。でも、あの時のヒクソンにあって、いまのクロンにはないものがある。高田延彦の存在です」
過去2年続けて年末のRIZINのリングに上がったクロンだが、彼の試合は榊原たちが目論んだほどの反響は生まなかった。それは、分刻みで明らかにされるテレビの視聴率にもはっきりと現れていた。
一介のサラリーマンに過ぎなかった20年前の榊原信行が、高田対ヒクソンに1人40万ドル、計80万ドルものファイトマネーを用意できたのは、世間が、日本人が、2人の対決を熱望したからだった。最強のプロレスラーと400戦無敗とされた柔術家の対決を、何がなんでも見たいと考えた人たちが多数存在したからだった。
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