沈黙の北朝鮮、年末年始が「分水嶺」の意味 武力衝突までもう「時間は残されていない」

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さらに、米共和党のリンゼー・グラム上院議員は12月3日に「CBSテレビ」のインタビューで、北朝鮮が新型ICBM「火星15」を発射したことで「軍事衝突が近づいている」と警告し、在韓米軍の兵士らの家族を韓国から退避させるべきだと訴えた。

年末年始が「分水嶺」

トランプ大統領のアジア歴訪の結果を見ると、北朝鮮への軍事行動などについて深い協議が行われたという感触はない。その意味で、危機は少し先送りになったのではという感じはあるが、状況は次第に煮詰まりつつある。

来年は北朝鮮建国70周年の年であり、金正恩党委員長が来年元日の「新年の辞」で改めて「国家核武力の完成」を大々的に宣言する可能性が高い。

金正恩党委員長がもし同時に、核実験や長距離ミサイル発射実験の発射中止といった「モラトリアム宣言」を行えば、米国はともかく、中国やロシアの経済制裁圧力は緩和の方向に向かうだろう。そういう状況を作って米国との長期戦に入る、というシナリオもあり得る。

一方で、米国が経済制裁や武力的な威圧を強めれば、北朝鮮が国際社会に「国家核武力の強化、発展」を誇示するような核実験やミサイル発射、人工衛星の発射などを強行する可能性もある。

韓国では来年2月に平昌冬季五輪が開催される。2020年夏期五輪の開催国は日本であり、2022年冬期五輪の開催国は中国だ。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は安倍晋三首相、習近平国家主席の平昌訪問を要請するだろう。

もし、北朝鮮が参加を決めれば、国家体育指導委員長の崔龍海(チェ・リョンヘ)党副委員長が訪韓する可能性もあり、興味深い外交戦が演じられるかもしれない。だが現況では、北朝鮮が平昌五輪に参加するには、様々な障害物がある。時間は切迫しているが、米国が対話に出てくる可能性が低い以上、米国を「主敵」とする北朝鮮は、そういう状況下で韓国との和解、対話には出づらい。

韓国の「聯合ニュース」は11月23日、青瓦台関係者の話として、来年2~3月の平昌冬季五輪・パラリンピックの期間に、韓国政府が米韓合同軍事演習を実施しないことを検討している、と報じた。米国はこうした報道を否定、青瓦台も公式には検討されていないとしているが、内部でそういう議論があることはあり得る。

平昌五輪は2月9日から25日、パラリンピックは3月9日から18日までだ。米韓両国は、例年3月から4月にかけて野外機動訓練「フォール・イーグル」と指揮所演習「キー・リゾルブ」を行っているが、これはパラリンピックの日程と重なる。

北朝鮮が孤立路線に固執して平昌五輪をボイコットすれば、軍事挑発の危険性が生まれ、参加すれば、来春は平昌を舞台に複雑なスポーツ外交が展開される可能性がある。

当面の焦点は、北朝鮮が年内にさらなる軍事挑発をするのかどうかということと、金正恩党委員長の来年元日の「新年の辞」の内容だ。この年末年始は、米朝が対決に向かうのか、対話に向かうのかの分水嶺になるように思える。

(文:平井 久志)

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「Foresight」編集部

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