「底辺芸人」が唯一無二の役目を見つけるまで コラアゲンはいごうまんの"巡業人生"

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それを表すエピソードが、焼津市の鈴木家である。仕切るのは、イベンターでも何でもない普通の主婦。コラアゲンとその芸に魅せられて、15年にわたって自宅で、毎年彼のライブを開催しているのだ。年々観客が増えたことから、パイプいすを十脚購入し、増改築も視野に入れているらしいです、とコラアゲンは目を細めて話す。

喰さんと出会うことで、ノンフィクション漫談という芸風を確立したコラアゲン。彼にとってこの芸は、出会うべくして出会ったライフワークだったのだろうか? 意外にも、コラアゲンは首を縦に振らなかった。

「剛速球は投げられないから、野沢菜を投げるんです」(撮影:今井康一)

「しっくり来たと思った次の瞬間、やっぱり僕には無理やなって思ったりしますね。でも、合っているかどうかは別として、僕はこれ(ノンフィクション漫談)をやるべきだと思うんです。48歳までこれでやってきて、急に一発ギャグに転向しても、誰が面白いと思ってくれるのか。職業を変えるって手もあるけど、この年で再就職は難しいでしょう」

仮に再就職できたとしても、ほかの職業では得られないであろう感覚が、この仕事にはある。だから続けていくのだと、コラアゲンは話す。

「ライブをさせてもらって、たまにやけど、大爆発ってときがあるんです。夜も寝れへんくらいそのシーンがグルグル回ってる、幸せな一日があったりするんです。これはもう、この仕事でないと味わわれへんと思うんですよね。転職して仮に収入が増えたとしても、目の前のお客さんが喜んでくれて、『元気になった』『明日からまた頑張れるわ』と言ってもらえるパフォーマンスは、これでしかできないんです、僕は」

今でも、ネタで爆笑を起こせる芸人にあこがれがある。けれど、自分にその才能はなかったのだと受け入れ、割り切っている。大谷クラスがいるんですよ、とコラアゲンは説明する。

「(北海道日本ハムファイターズ・大谷翔平投手のように)165キロの球を投げる才能のある人がいるんですよ。僕があこがれてまねしても、140キロ台しか出えへん。そこで勝負しても勝てへんのです。けどね、あきらめるのは早い。魔球を覚えればいいんですよ。ボールじゃなくて野沢菜を投げるとかね」

投げたかったわけではない。しかし、残された手段がこれしかなかったから、野沢菜を投げた。結果的に、その投法が自分のスタイルとなり、オリジナリティや個性と呼ばれるようになったのだ。

好きなことをして、食えるという幸せ

生活も安定した。「ザ・ノンフィクション」で取り上げられたときは、四畳半一間、風呂なし、共同トイレのアパート暮らし。ゴミ屋敷のような部屋で、カップラーメンをすする日々だった。今は風呂・トイレ付きの部屋に引っ越し、栄養ある食事をきちんと取っている。ビデオ屋でのバイトも辞め、仕事もライブ以外に講演、ラジオ、コラムの連載など幅が広がっている。なんと結婚もした。

「売れるに越したことはないけど、好きなことをやって生きていけたらすてきですよね。そう考えたとき、ノンフィクション漫談に出会えてつくづくよかったなって思います。願わくは、これで死ぬまでやっていけたらいいですね」

そもそも続けることが難しいお笑いの世界。コラアゲンの同期も、ほとんどが辞めているという。しかし、彼は続けている。決して売れていなくても、食えている。しかも、自分の好きな芸をして。

なぜコラアゲンは、それが実現できたのだろう? 尋ねると、真剣な面差しでこう話した。

「自分に才能がなければ、才能ある人に腹立つこと言われても、言うことを聞いたほうがいいってことでしょうね。あとそういう人を離さない。腹が立っても、適当にゴマすりながら、はいはいって聞く。これが大事ですね」

テレビをつけると、人気の芸人たちが画面を彩っている。ゴールデンタイムには、数百万人もの視聴者が、彼ら彼女らを見ていることだろう。その陰で、コラアゲンは今日も20人程度の観客を前に、ノンフィクション漫談を披露している。

どちらが成功者だとか幸せだとか、そんな問いはそもそも不毛なのかもしれない。大事なのは「自分の生きる道と幸せをいかに見つけるか」だと、1人の芸人が教えてくれた気がした。

(=敬称略=)

肥沼 和之 フリーライター・ジャーナリスト

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こえぬま かずゆき / Kazuyuki Koenuma

1980年東京都生まれ。ルポルタージュや報道系の記事を主に手掛ける。著書に『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』(青月社)、『フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。』(実務教育出版)。東京・新宿ゴールデン街の文壇バー「月に吠える」のオーナーでもある。ライフワークは愛の研究。

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