世界一のピアノ「スタインウェイ」強さの本質 アイコン化した強い組織の研究<2>

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世間や従業員の信頼に傷はついたものの、スタインウェイのDNAは完全なままだったようで、社は昔の地位を取り戻すことができた。従業員は従来の品質を高く評価しており、新しいマネジメントと建設的な議論が行われた。ニューヨーク・タイムズの厳しい批評家も1995年にこう書いた。

「最近クイーンズのスタインウェイの工場に行ったが、ピアノを改善しようとする真剣な取り組みが見られた。2、3年前と比べると、仕上がりを丁寧に確認している。外部の技術者たちがスタインウェイはよくなっている、と言っているのもいい傾向だ」

スタインウェイは製造プロセスだけではなく、流通網の見直しも行った。最高の代理店だけにスタインウェイの販売を託すようにしたのだ。アメリカでは、153あった代理店を110まで減らした。そしてスタインウェイにふさわしい専門知識、地位、品質などを求めた。たとえば代理店のピアノ技術者は、スタインウェイのニューヨークあるいはハンブルグの工場で5日
間の研修を受けることが義務づけられている。こうすることで、スタインウェイは能力循環に代理店を取り込んでいる。

そのままにしておくのがいちばん

『アイコン的組織論ー超一流のコンサルタントたちが説く「能力の好循環」』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

2013年9月19日、スタインウェイ(1996年から公営だった)は、ジョン・ポールソンに引き継がれた。再生企業を買収するのが彼の仕事だったが、スタンウェイを引き継いだのは、まったく別の理由からだったという。

「完璧なものがあって、その分野でたぐいまれな位置を占めているなら、そのままにしておくのがいちばんです。私の姉妹ふたりはピアノが好きで、スタインウェイを夢見ていました。父には手が出なかったので、小さめのグランドピアノを買ったのですが、それはスタインウェイではありませんでした。ピアノが配達されたとき、2人が泣いていたのを覚えています。そのときに、初めて気づきました。スタインウェイというのは、本当に特別なんだと。私がやりたいのは、スタインウェイを守り、ピアノの品質を保つことです」

スタインウェイは、160年の歴史の大半がそうであったように、再びアイコンとなった。名だたるコンサートホールでの、ピアノコンサートのほとんどが、スタインウェイで演奏されている。

ザビエ・ベカルト、フィリス・ヨンク、ヤン・ラース、フェボ・ウィベンス 『アイコン的組織論』著者

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『アイコン的組織論』(フィルムアート社)著者。ザビエ・べカルトは設立して間もない戦略コンサルティング会社ベントハーストの共同創立者。フィリス・ヨンクはビジネス革新に情熱を持つ戦略コンサルタント。ヤン・ラースは、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の奏者兼事務局長。フェボ・ウィベンスはペンシルベニア大学ウォートン校にて戦略についての博士研究を行っている。

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