生保会社の信用力と動向−株価下落時の毀損リスク上昇、金利リスク低下だが総じて安定的《ムーディーズの業界分析》
■財務プロファイルとその傾向
株式リスクの増大
国内大手生命保険会社のリスクの多くを占めるのは、依然として一般勘定における保有株式である。2008年3月期、国内株式市場は前年度末比で約3割下落しており、これが有価証券含み益の大幅減につながった。含み益というバッファーが大幅に減少した結果、さらなる株式市場下落時の資本や利益の毀損リスクが上昇している。
今年度において昨年度と同程度の株式市場下落が発生し、現行の格付けにおける想定の範囲を超えるケースがでてきた場合、格付けをネガティブな方向で変更する可能性もある。
債券ポートフォリオの入れ替えは、ALM精緻化に向けての第一歩
2010年あるいはそれ以降に始まると見られる経済価値ベースのソルベンシー規制への変更時、金利による保険負債価値の変動が規制資本に本格的に反映されると考えられる。プラスの影響として、金利変動などに対するサープラス価値の感応度を測定し、リスク管理に用いる試みが、国内保険会社において始まっている。
こうした規制環境の変化に加え、2008年3月期中、中長期債の価格が上昇し、超長期債の価格がほぼ横這いの局面があったため、中長期債売却・超長期債購入の動きが活発化したとみられる。国内大手生保において、債券ポートフォリオのデュレーションの長期化は金利変動によるサープラス価値変動リスクを低下させる効果があり、これはALM精緻化に向けての第一歩と捉えることができる。
規制変更によるソルベンシー・マージン比率の低下は格付けに影響を与えず
2008年2月、金融庁はソルベンシー・マージン比率の見直しの骨子(案)を発表した。今回の変更は経済価値ベースへの移行ではなく、主としてリスク量計測に際しての掛け目(リスク係数)の変更にとどまるとみられる。変更によりソルベンシー・マージン比率が数百%ポイント低下する可能性もあるが、これはリスクの状況に変化があることを意味するわけではないため、格付けへの影響はない。
資金調達手段の多様化の動きが進む
相互会社は株式市場での資金調達が出来ない点が、財務の柔軟性におけるマイナス要因となっているが、一方で、基金の証券化、公募による劣後債の発行等投資家層を広げる動き、短期資金調達手段の確保など、財務の柔軟性を高める動きもみられる。
また、第一生命は2011年3月期上半期を目処に株式会社化及び上場する方針を発表している。株式会社化によって、財務の柔軟性のみならず、商品開発における柔軟性も向上する。関連法制により相互会社では保険料総額の20%までしか無配当保険の販売ができない。一方で、株式会社化に伴う直接的・間接的コストや株主からの積極的リスクテイクに対するプレッシャーといった格付け上マイナスの要因も発生しうる。
資金調達手段の多様化により、各社のリスクプロファイルに整合した資本構成が構築しやすくなるものと考えるが、格付けに際しては調達資金の使途など事業戦略の状況も併せて反映していく。
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