中古車専門店を苦しめる「買い取り価格」競争 消費者はうれしいが、業者は赤字覚悟で勝負

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国内の中古車オークション最大手ユー・エス・エスは、傘下に買い取り専業のラビット・カーネットワークを抱える。買い取り事業を持つことで、オークションに出品するための良質な中古車を確保するのが狙いだ。

追い打ちをかけるのが、新車ディーラーの存在だ。国内の新車市場が頭打ちになり、ディーラーもこの10年弱の間に中古車事業に力を入れ始めた。中古車情報サイトの「カーセンサーnet」にもディーラーが中古車情報を掲載するようになっている。

買い取り専門業者は、オークションでの卸価格が買い取り価格を超えなければ利益が出ない。一方の新車ディーラーは、卸売りで利益を出すのではなく、中古車を売って固定客を増やし、メンテナンスで利益を稼ぐ。中古車の販売だけで利益を出す必要がなく、専業の業者が太刀打ちできない高い買い取り価格で勝負できる。

ネットの一括査定で買い取り価格が暴騰

この10年ほどで浸透した「一括査定」も買い取り事業者を苦しめる。ネット上で車両情報を登録し、複数の買い取り業者に査定依頼を出せる仕組みのことだ。買い取りは価格勝負。同じ客の元に同じ時間に、複数の業者が出張査定で居合わせることもあるという。そうなると買い取り価格はどんどん吊り上がる。

旧ガリバー(現IDOM)の従来型店舗は、中古車買い取りが強調されていた(撮影:風間仁一郎)

買い取り専業で拡大してきたIDOMは、直近5年で車両展示型の小売店の出店を増やしてきた。卸売りから利幅の大きい小売りへのシフトを急いでいる。つまり、従来型の中古車ビジネスへの回帰が進んでいるのだ。

もう一段加速させるべく、今年度からは従来買い取り専門店として運営していた「ガリバー」の店舗を「ガリバー展示販売モデル」と称する小売り注力店に転換する。280店あるガリバー店舗のうち、8月時点で約200店を小売り型に変えた。

小売りシフトの波は同業他社でも同様だ。2017年3月期は最終赤字に陥ったカーチスHDも買い取り専門店のリストラを進め、小売店舗への人材の再配置を行う計画だ。中古車買い取り専門店をフランチャイズ展開するアップルインターナショナルも、現状では買い取り台数の9割以上を卸売りが占めるが、今後小売りの割合を高める方針を掲げている。

需要はそのままなのに、買い取り業者ばかりが増えてきた中古車市場。その競争が限界に達しつつある今、大きな変革の時を迎えている。

宮本 夏実 東洋経済 記者

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みやもと なつみ / Natsumi Miyamoto

自動車メーカー、部品会社を担当

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