列車内「乗客ウォッチング」はアイデアの宝庫 「鉄道小説」の巧者が明かす創作の秘密

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――決して鉄道ファンではないとのことですが。

子供のころに鉄道に憧れる時期はありましたよ。自分で切符を作って、はさみでパチパチ切って遊んでいました。子供のころ世田谷に住んでいたときに自転車で線路伝いに秋葉原まで行ったこともあります。人々の心の底にも鉄道は存在している。では鉄道がなくなるとどうなるのか。そう考えたとたんにイメージが湧いてきます。

――小説家を志した理由は?

漠然と、です。中学のときから将来は小説家になりたいと漠然と思っていました。ただ、理科が好きで、得意科目でもあったので、「小説家にはいつでもなれる」と思って、就職先にはNECを選び、その後アスキーに転職しました。仕事がすごく面白くて、なかなか小説家のスイッチは入らなかったですね。

阿川大樹(あがわ・たいじゅ)/1954年、東京生まれ。東京大学在学中に野田秀樹らと劇団「夢の遊眠社」を設立。1999年「天使の漂流」で第16回サントリーミステリー大賞優秀作品賞を受賞。2005年「覇権の標的(ターゲット)」で第2回ダイヤモンド経済小説大賞優秀賞を受賞。

でも、1993年頃のある日、高校のクラスメイトが事故で亡くなったのです。彼自身がなりたいものになるために時間をかけていた人で、やっとそれが実現しようというときに亡くなった。「人生はいつ終わるかわからない」という当たり前のことに気づかされた。じゃあ、「僕の人生が終わるときに、僕は何でいたいか」。それで、小説家になろうと決心した。ただ、目の前に仕事があって、小説を書くことができるようになったのは1996年頃です。

小説家として芽が出ないかもしれないので、あきらめる時期を決めるのは重要です。もうちょっと、もうちょっとと続けているうちに泥沼にはまってしまう。そのころ貯金が550万円あったので、それが150万円まで減ったらあきらめようと決めていました。幸いにもアルバイト的に仕事が入った時期もあり、1996年から9年間、小説家にチャレンジできました。

「D列車でいこう」タイトルの秘密

――2005年にシリコンバレーを舞台にした「覇権の標的(ターゲット)」がダイヤモンド経済小説大賞を受賞しました。経済小説で勝負するというお考えがあったのですか。

いや、全然。ダイヤモンド社の賞だからそういうネタで行こうと。経済小説にもいろいろありますが、会社の権力争いの軋轢で冷や飯を食わされて、みたいな話は絶対に書きたくない。その会社にいるのが原因なので、会社を辞めれば全部解決する。その程度のことを大上段に構えて書くことは好きではありません。

――「D列車」もある意味で経済小説なのでは?

まあ、そうですね。ダイヤモンド社から「覇権の標的(ターゲット)」が出版された後に、そのダイヤモンドの編集者に持って行った次のアイデアが「D列車」です。だから経済小説風の物語になっています。でもその編集者からは「文芸系の出版社に持って行くほうがいい」と、遠回しに断られた。そんなときに徳間書店の編集者と知り合い、「D列車」のアイデアを話したら「それは面白い」ということになって、実現したという次第です。

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