トランプ氏、米韓FTAをぶち壊そうとした理由 全面的に非難され、後退はしたが…

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会議の場で反対したのは一人だけだったが、非公式にトランプ氏に反対した人物はほかにもいる。異論を唱えた人物の中には、ケリー首席補佐官、マクマスター国家安全保障担当補佐官、マティス国防長官の重鎮3人が含まれる。農業セクターが米韓FTAの恩恵を受けているため、パーデュー農務長官も非公式に反対した。

トランプ氏はなぜ、米韓FTAをぶち壊そうとしたのか。何人かの政権インサイダーは、単に韓国政府から譲歩を引き出すためのハードな交渉テクニックにすぎなかったと言う。一方で、カナダとメキシコにタフなメッセージを送ろうとしていたのだ、との見方もある。北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉で米国の条件をのまなければ、協定破棄の可能性だってある、とのメッセージである。

タフガイであると示したい

またトランプ氏が経済関連の公約をまるで実現できないでいることも背景にあると考えられる。オバマケア(医療保険制度改革)を撤廃できず、メキシコ国境に建設すると約束した壁についても議会の承認を得られなかった。移民問題についてくだを巻いている中、韓国に対してタフガイであることを示せば、支持者を喜ばせる何らかの話題を提供できる。

ある消息筋によれば、トランプ氏は当初、NAFTAの破棄を側近に語っていたのだという。だが、通商製造政策局のトップを務める超タカ派のナバロ氏が、返り血を浴びるのは米国の企業や労働者だと忠告。代わりにナバロ氏が生け贄として差し出したのが、米韓FTAの撤廃だったという。

幸い、トランプ氏はほえまくっているほどには過激な言葉を行動に移せない。だが、支持率が低下すればするほど、米韓FTA撤廃のように支持者を興奮させる話題を持ち出したくてたまらなくなるだろう。米国政治は今のところ試練に耐えているが、前途は多難だ。

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。著書に『The Contest for Japan's Economic Future: Entrepreneurs vs. Corporate Giants 』(日本語翻訳版発売予定)

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