AI先生は究極の「個別指導のプロ」だった 「何がわからないのか」を即座に解析
稲田さんが見せてくれたのは、生徒の状況が逐一わかる講師専用のタブレット画面。
「この生徒の場合、目標は数Iの『正弦定理』をマスターすることですが、AIはその前段階である数Aの『垂直二等分線と三角形の外心・垂心』が理解できていないと分析しました。さらに、そこを理解するには中学校で学ぶ『三平方の定理』の復習から始める必要があると判断し、演習問題を出しています」
普通なら、教科書や参考書で「正弦定理」の説明をもう一度読む→演習問題に取り組む、という指導を繰り返すところだろう。しかし問題が解けない原因は人それぞれ。AIが得意なのは、まさにそこだ。
「何がわかっていないからわからないのか」を解析し、必要な学習を必要な分量だけ提示するので、習得時間が大幅に短縮できるという。
AIと講師の役割分担
「こうした手法を教育界では『遡行(そこう)学習法』と呼びますが、実際にできるのは、トップレベルの教師だけ。それをAIに身につけさせました」(稲田さん)
授業が始まって約20分。「正弦定理」をマスターすべく「三平方の定理」に立ち返り、いまようやく「垂直二等分線と三角形の外心・垂心」に取り組み始めた女子生徒が手を挙げた。
「先生、わかりません」
いよいよ講師の出番と思いきや、返ってきたのは、
「解説動画は見たんだよね。じゃあ、その問題の解答を見ながら、もう一回やってみよう」
というアドバイス。
女子生徒は一瞬、驚いた表情を見せたものの、気を取り直して図を描き始めた。解答に書かれていることを追いながら、補助線を引き、考える。もう一本、別の補助線を引く。しばし鉛筆が止まる。が、ある瞬間、勢いよく手が動き始めた。
「角度χ=°34」
答えにたどりついた瞬間、背後から講師の声がした。
「一人でできたじゃん」
女子生徒もうれしそう。
「何回も間違えたほうが定着するから大丈夫。その調子だね」
複数の生徒を見ている講師がこんな絶妙のタイミングをとらえられるのも、AIのおかげだ。講師用タブレットではAIがケアすべき生徒を判断し、
「手が止まっています」「同じ単元で2回目の復習テストを受けています」
などと表示してくれているのだ。稲田さんは言う。