日野とも握手 協業を加速するいすゞの新戦略

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トヨタとも提携

 同社はこれまで、「商品補完型」の提携戦略をとってきた。GMからSUVや大型ピックアップトラックの供給を受け、代わりにGMへは主力製品の小型トラックを供給。ディーゼルエンジンを生産するGMとの合弁工場もあるが、ここでの生産・開発はいすゞが担っている。

 だが、販売面のシナジーを中心にした提携だけでは立ち行かない状況となってきた。背景にあるのが、年々厳格化されている排出ガス規制の存在だ。いすゞは今や、研究開発費の半分以上を環境や燃費などエンジン開発に投じている。「排ガス対応などへの巨大なコストが、われわれの大きな課題」(細井社長)。

 今後の環境対策には、単独開発では限界がある。こうした考えから今回掲げたのが「生産・開発協業型」の提携戦略だ。日野とのディーゼルエンジンの「後処理装置」開発はその象徴である。

 排ガス規制に対し、いすゞと日野はともに「EGR(排気ガス再循環装置)」という後処理装置を採用してきた。排ガスに含まれる有毒成分のNOx(窒素酸化物)を低減する装置である。一方、日産ディーゼルと三菱ふそうは「尿素SCR」という装置を確立し、NOxを浄化してきた。

 ところが、2010年に国内での実施が予定される「ポスト新長期規制」は規制値がさらに厳しくなる。排ガスの有害成分を現行の6割以上も減少させなければならない。業界内では「いすゞと日野も(NOx低減に優れる)尿素システムを開発しなければ次期規制をクリアできないのでは」とささやかれていた。このような後処理装置の開発に共同で取り組めば、開発期間の短縮化や大幅なコスト削減が可能になるだろう。「提携による開発費削減効果は60億円」と、野村証券の成瀬伸弥アナリストは分析する。

 新たな提携は日野だけではない。トヨタとは1・6リットルディーゼルエンジンの開発を協議中。12年ごろの投入が予定される欧州戦略車への搭載を視野に入れているようだ。

 提携戦略を軸に盤石にみえる新中計だが、懸念材料もある。成長シナリオの牽引役は新興国を中心とした海外トラック販売とし、現在の64%増となる35万台販売を目標に据えている。だが、高価格の日本車が新興国で受け入れられるかどうか。07年度までの旧中計では海外販売30万台を目標としていたが、中国で現地生産の廉価車に押されるという壁にぶつかり、その半分の16万台にとどまっている。

 いすゞが経営目標を達成するには、提携戦略の構築だけでなく、いかに現地事情に適した製品を投入できるかにもかかっている。

(書き手:西澤佑介 撮影:尾形文繁)

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