「教育困難大学」がPR活動に躍起になる事情 高校に「どぶ板営業」をかけさせられる教職員

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やりたいことをしっかりと自覚し、その分野で秀でた業績を上げている教授のいる大学・学部を、意識して選ぶ受験生もいなくはない。しかし、それは学力・能力ともに非常に高いレベルの者の話だ。一般的な受験生は、専攻分野や将来の職業を漠然と決め、それが学べる大学の中で、少しでも偏差値の高い大学に入りたいと希望し、受験勉強に取り組む。

しかも、受験勉強をきちんとする高校生も、実際は受験生全体の半数にも満たない。1990年代に始まった大学入試多様化の動きの中で始められた推薦入試やAO入試では、一般受験ほど学力は重視されない。これが、これまで大学に入れなかった学力層の高校生を大学に向かわせる契機となった。いわゆる「教育困難校」と見なされる高校の卒業生たちも、大量に大学に送り込まれることになったのである。

「教育困難校」の生徒と保護者にいちばん響くのは…

オープンキャンパスで最もアピール度が高いのは、教職員・学生の雰囲気だ。大学進学に自信のない「教育困難校」の生徒と保護者にとっては、大学の教育内容よりも「教員も学生も明るく話しやすかった」「やさしく接してくれた」といった点が、志望校決定に大きな影響を持つ。反対に、高校生がフレンドリーではないと感じるような対応をすると、予想以上のイメージダウンにつながってしまう。

ある大学の個別相談コーナーで、志望学部を迷っている高校生に対応した教員が将来の夢を尋ねた。高校生は「公務員になること」と答えたので、大学教員は「公務員になって何がしたいのか、解決したい課題は何か、もっと深く考えるように」と、ごく普通の助言をした。しかし、その口調が、高校生には強く感じられたのだろうか、「怖い先生がいる大学には行かない」と、その大学は志望校候補から外れたという例を筆者は聞いた。

また、別の個別相談コーナーでは「母子家庭で経済的に厳しいが、大学でも硬式野球部に入りたい。どのくらいおカネがかかるだろうか」と質問する母子がいたそうだ。相談担当は「野球部の関係者ではないので正直にわからない」と答え、経済面で不安があるのなら無理におカネのかかる野球を続けず、ほかのサークルに入ったらどうかと親切心から提案したという。しかし、その後、母子は、「大学の先生はいくらかかるか教えてくれなかった。野球を続けたいという思いをわかってくれなかった」と高校に伝え、やはり志望校にはならなかった。

オープンキャンパスだけでなく入学後も含め、どのような場合でも、教育困難大学の教職員は笑顔と親切な対応を欠かすことができないのだ。言うまでもなく大学は研究・教育機関である。だが、現状では、まるでファストフードのアルバイトのように「スマイル」や「優しい対応」が教育や研究の質以上に志願状況に影響を及ぼす大学が少なからずある。それは大学数の増加と、大学にサービスを強く求める新たな大学進学希望者層の志向の両方が生み出した結果なのだ。大学進学率が毎年増大し、大学授業料無償化も検討されている今、大学の現状について再度考えてみる必要があるのではないか。

朝比奈 なを 教育ジャーナリスト

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あさひな なを / Nao Asahina

筑波大学大学院教育研究科修了。教育学修士。公立高校の地歴・公民科教諭として約20年間勤務し、教科指導、進路指導、高大接続を研究テーマとする。早期退職後、大学非常勤講師、公立教育センターでの教育相談、高校生・保護者対象の講演等幅広い教育活動に従事。おもな著書に『置き去りにされた高校生たち』(学事出版)、『ルポ教育困難校』『教員という仕事』(ともに朝日新書)などがある。

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