脱ソニーから3年、「VAIO」は何が変わったか 過去3年で法人向け売り上げが2倍に

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現在のVAIOはビジネスパーソン、クリエーターなどが日々行う、さまざまな生産活動を最高のパフォーマンスと品質で高めていく道具に特化したパソコンを目標に商品企画・開発されているが、ソニー時代に定着した遊び心満載のエンターテインメントパソコンのイメージをそのまま引きずり、払拭しきれていないことを吉田社長も認めている。

一方で事業ポートフォリオを見るかぎり、第2の柱としていたEMS(電子機器受託製造)事業は発展途上。さまざまな事例は生まれているものの、収益のほとんどはパソコン事業に依存している。足元の業績は堅調な一方、成長戦略が描きにくいパソコン事業が中心のうちは成長もできない。ブランドや技術力に対する評価はあるが、かといって伸びしろが見えにくいというのが現時点におけるVAIOに対する外部からの率直な評価だ。

事業方針説明の記者会見で吉田社長には、記者から「株式公開の予定は?」との質問も出たが「着実に足元は固めてきたが、まだ拡大路線を走れるほど筋肉質にはなっていない」と、さらなる事業拡大に向けて一気に外部資本を取り込む段階には至っていないと否定した。

一方でVAIOならではの強みもある。

たとえば同社の売り上げを支える法人向けパソコン事業だが、一度、選定機種に入ると(現場の社員が)いくつかの選択肢からVAIOを選ぶことが多く、それが3年で法人向け売り上げ2倍という成果を引き出した要因になっている。

海外での展開も、北米などは量を追わないプレミアム製品として通販に特化している一方、南米など新興国向けには現地パートナーにブランドをライセンスするなど、ソニー時代に浸透したVAIOブランドの浸透度や地域市場の特性に合わせて行っている。

顧客が「VAIOという名前を出したい」

さらにEMS事業においても、富士ソフト・Palmi、トヨタ・KIROBO mini。講談社・週刊 鉄腕アトムを作ろう!などの事例を挙げ「通常、EMS事業は黒子に徹するものだが、VAIOの場合は顧客が”VAIOという名前を出したい”とリクエストしてくれる(吉田社長)」という。

こうした事例は、ソニー時代から続くVAIOブランドの遺産とも言える部分であるが、今後、数年をかけて事業領域を拡大するうえで、大きな優位性にはなりうるだろう。

JD.comと提携して展開する中国向けのVAIO製パソコン販売についても、今の時点であればまだ、中国展開していた時代のVAIOの残り香を生かせるかもしれない。同社は中国生産のVAIOパソコンを長野県安曇野で仕上げる「安曇野フィニッシュ」、安曇野で生産するプレミアムモデルなど、日本生産にこだわって品質を担保しているが、中国向けに関しても、当面は極端な量販を狙うのではなく、数年をかけて安曇野生産によるブランド定着を狙っていくことを、パートナーであるJD.comとも確認しているという。

視点を変えれば、ソニー時代に積み上げたVAIOのブランド力の大きさと、現時点でのVAIO株式会社の事業規模のギャップが、実は大きなアドバンテージとなっているということだろう。小さな会社にしかできない小回りの利く組織と、大企業が投資して作り上げたブランドの両方があるからこその強み。それこそが、この3年間で彼らが見いだした突破口なのかもしれない。

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