三菱ケミカル、ついに動く「最強工場」の実力 汎用品のアクリル樹脂原料で海外勢を圧倒

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これまでMMAは「ACH法」、「C4法」と呼ばれる2つの製法が主流だった。前者はアセトンと青酸、後者はイソブチレンが主原料。欧米や中国のMMAメーカーは伝統的な「ACH法」を採用し、日本と韓国勢は「C4法」組が多い。

エチレンから直接MMAを作る

一方、三菱ケミカルのサウジ新工場は、独自の「新エチレン製法」を採用。既存の2製法が複数の製造プロセスを経た石化誘導品を主原料とするのに対し、新エチレン法は石化基礎原料のエチレンから直接作る製法で、コスト面で優位性がある。しかも、今回の新工場は、現地で調達した非常に安価な天然ガス由来のエチレンを使う点が大きなポイントだ。

エチレンは石油、または天然ガスの成分を分解して作られるが、コスト的にはサウジの天然ガスをベースとしたエチレンが世界でもっとも安い。その安価なエチレンをMMAの原料に使えれば、独自新製法の強みを最大限に発揮できる。だからこそ、現地国営のSABICをプロジェクトに招き入れ、サウジ側と戦略的に手を結んだのだ。

(注)2016年、東洋経済推計

「中東での新工場立ち上げは、ルーサイトを買収した時からの悲願だった」。三菱ケミカルでMMA事業を率いる宮木敬・常務執行役員はそう語る。それまでMMAで2番手集団の1社だった同社は、2009年に最大手の英国ルーサイト社を傘下に納め、断トツのシェアを手に入れた。買収に要した金額は約1600億円に上った。

それだけの巨費を投じて買収に踏み切ったのは、事業規模の拡大に加え、ルーサイトが独自に開発した「新エチレン製法」を手に入れるため。当時、ルーサイトは新製法を初適用した工場をシンガポールで立ち上げたばかりだった。

同工場は石油由来のエチレンを原料に用いているが、中東ではるかに安い天然ガス由来のエチレンを使えば、さらに圧倒的なコスト競争力が得られるーー。ルーサイト買収後、三菱レイヨンはサウジ側との協議を重ね、2014年に工場建設を正式に決定。いよいよその稼働を迎え、ルーサイト買収から8年越しの構想がようやく実現する。

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