「よろしくお願いします」が英訳できない理由 相手方へも含めた以心伝心を物語る

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「よろしく」の前には、目的として、物事の便宜を図ってもらいたいという意図が省略されているのです。しかし、注目すべきことは、その意図を言葉として表現せずともコミュニケーションが成り立ち、その意図もくみ取られることです。

これはまさに、「以心伝心」を物語っている気がします。「以心伝心」とは、「心を以(もって)心に伝う」と読み、元来は仏教(禅宗)用語で、言葉や文字では分からない仏法の真髄を、師から弟子の心に伝えることを意味しますが、現代では文字や言葉を使わなくても、お互いの心と心で会話するということを意味します。この言葉から抽出すべきことは、「信頼」というものです。私はこの「信頼」こそ、「よろしく」が指し示すものだと思うのです。

お互いの「信頼」があってこそ

「よろしく」とは、自分への便宜を図ることだけをお願いする一方通行ではなく、相手への便宜も図る対面通行でなければ成り立ちません。さもなければ、それはただの強要になってしまいます。いい例が、「よろしくお願いします」と言えば、「こちらこそ、よろしくお願いします」という返答がある場合です。お互いの「信頼」があって成り立つのが、本来の「よろしく」という言葉なのではないでしょうか。

大來尚順さんの連載が本になりました。『訳せない日本語―日本人の言葉と心』(アルファポリス)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

これまで、なかなか相手のことまで考えて「よろしくお願いします」と口にしていなかった私自身を反省します。多くの方と、心から「よろしくお願いします」という言葉を交わすことができるような生活に努めていきたいと思います。

なお、1年間お読みいただいたこの「訳せない日本語」という連載は、これをもって一旦終了とさせて頂きます。ご存知の方もおられると思いますが、この企画はすでに書籍化もされ、幸いなことにご好評をいただいております。

また今後は、異なったテーマにて、少しお休みをいただいた後に連載を再開するつもりでおります。私なりにあった新たな発見などを、また皆さまにお届けしていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願い致します。

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大來 尚順 浄土真宗本願寺派僧侶

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おおぎ しょうじゅん / Shoujun Oogi

1982年、山口県生まれ。浄土真宗本願寺派僧侶でありながら、通訳や翻訳も手掛ける。龍谷大学卒業後に単身渡米。カリフォルニア州バークレーのGraduate Theological Union/Institute of Buddhist Studies(米国仏教大学院)に進学し修士課程を修了。その後、同国ハーバード大学神学部研究員を経て帰国。帰国後は東京と山口県の自坊(超勝寺)を行き来しながら、僧侶として以外にも通訳・翻訳、執筆・講演などの活動を通じて、国内外への仏教伝道活動を実施。翻訳著書も多数出版する傍ら、初級英語で仏教用語をやさしく解説した「英語でブッダ」(扶桑社)も非常に好評のほか、「お坊さんバラエティ ぶっちゃけ寺」(テレビ朝日系列)にも出演。
 

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