「偽装死」で別の人生を生きることはできるか 偽装死を考えると「生きる」の意味が鮮明化

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まず訪ねたのは、『失踪請負人』フランク・アハーンだ。この人の本は読んだことがある。日本ではあまり話題にならなかったが、アメリカではベストセラーになったという『完全履歴消去マニュアル』の著者である。そのアハーンによると、いまのネット時代に失踪してプライバシーを完全に消し去ることは不可能に近い。

しかし、ネットの威力を逆手にとって、プライバシーを撹乱することは可能らしい。たとえば成毛眞(仮名)が、その履歴を消したいとする。もちろん、可能な限り消去する。それでも、ネット検索すると、あちこちに引っかかってくる。どうするか。偽のサイト、実際の成毛眞とは違う偽の成毛眞のウェブサイトをたくさん作ればいいというのだ。それぞれの成毛眞サイトには、当然、それぞれ違った偽のプロフィールを書き込んでいく。たとえば「ジョニー・デップ似で人格が高潔、非の打ち所のない成毛眞」とかいうように。このような情報撹乱は、情報消去よりもはるかにたやすくて効果的であるらしい。

保険会社は甘くない

そういったノウハウを駆使する凄腕『プライバシー・コンサルタント』アハーンだが、偽装死亡には反対だ。理由はシンプル。多くの偽装死亡は、保険金の搾取も目的とする。そりゃぁそうだ。偽装死亡の理由の1位は借金だ。それに、偽装死亡がうまくいったとしても、その後の人生、おカネがなければどうしようもない。保険金の入手は必須なのだ。しかし、保険会社は甘くない。必ずばれてしまうというのだ。

ならばとグリーンウッドが次に選んだ取材対象は、保険会社の依頼をうけて捜査する偽装摘発請負人、エリート私立探偵エリート・ランバムである。ランバムによると、偽装死亡はほぼ不可能だという。これまでに、一人を除き、依頼を受けたすべてを暴きだしたというランバムだけに、その言葉には説得力がある。

偽装死亡が簡単にできるのは、フィリピンらしい。アメリカ国内では、事故を偽装して、適当な遺体を見つけるのはきわめて困難だが、フィリピンでは比較的たやすくできる。なんと5千ドルもあれば手配できるというのだ。しかし、これには制限がある。見かけがフィリピン人に似ていないとさすがに無理である。それだけでハードルが十分に高いではないか。いかに死亡偽装が難しいかを説くランバムだが、その最大の理由のひとつは、過去の人間関係を断ち切ることができるか、ということにある。ごもっともだ。死亡偽装したが最後、それ以前の知り合いとは会うことができなくなる。そんなことをしたらバレバレだ。

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