日本も「右傾化した」と世界から見られている 世界の一面を過度に煽る情報に踊らされるな
ドナルド・トランプ大統領誕生後のアメリカ、EU離脱決定後のイギリスや大統領選挙時のフランスをはじめヨーロッパ各地の動向など、今のニュースがどうやってつくられ、報じられているのか。社会の現象とその経緯、そして現地で暮らす人々の意識を具体的に知ることで、世界で起こっている“右傾化”の全体像が複眼的に見えてくる。
世界では、日本の“右傾化”も報じられている
個々の人たちの経験や思い、考えをアメリカやヨーロッパで取材し続けてきた増田ユリヤ氏は、次のように述べている。「フランスで取材をしているとき、『日本はすごい独裁者が政権を握っているんでしょ』と言われたことがあります。日本をそういうふうに見ているフランス人もいるんだと少し驚きました」。
私たちは普段、アメリカやヨーロッパの“右傾化”という報道に触れているが、日本の現状も世界では同じように報じられている。「第1次安倍政権が成立したとき、アメリカでは、日本が右傾化したと報道されていました。『日本を、取り戻す。』といっている歴史修正主義者が政権をとったと」(池上氏)。
こうして見ると、“右傾化”と報道されている世界の状況も今の日本と同じようなところがあるのではないかと捉えられるかもしれない。「日本も政治の現場では確かに右傾化と呼べるような状況があります。だからといって日本全体がおかしな状態になっているわけではありません」(池上氏)。そう考えれば、他国の状況に過度におびえたり、不安ばかりを高めたりする必要もなくなるだろう。
ただ、よその国のことと、放っておくこともできなくなるはずだ。なぜなら、「ヘイトスピーチ」や「教育勅語」をめぐる報道などを見ていると、日本にも「おかしな状態」がないわけではないからだ。たとえば、差別的な発言を何度も批判されながら、知事に4度も当選した人物もいる。有権者や社会、メディアの姿勢が他国と比べ、さまざまな差別の問題に無自覚な状態が続いているのではないだろうか。
また、メディアに関しては、世界の“右傾化”報道をどういうふうに取り上げているかにも注意を払わなければならない。それぞれに異なる状況を、一面的に日本にいる私たちの固定観念でまとめ上げ、過度にあおるだけの情報も多いからだ。
「ヨーロッパの中もいろいろで、一概に右傾化といってしまうと、それぞれの国の事情が見えてこない」(池上氏)。そのため本書では、アメリカ、ヨーロッパの歴史や宗教、経済や地政学的な状況などにも触れている。それらは、今起こっていることをより深く知ること、そして自分自身が属している日本の社会を振り返る機会にもなる。「どんな時代でも急に何か大きな事件が起こるわけではありません」(増田氏)。まず、そのつながりを意識することから、日々のニュースの見え方が変わってくるはずだ。
(構成:小山 晃)
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