フランス国鉄が「TGV」ブランドを捨てる事情 新ブランド「inOui」は定着するのか
料金は劇的に安く、前売りの割引切符がうまく手に入れば、パリ近郊とリヨンを結ぶ長距離でも最低10ユーロ(約1200円)と従来のTGVと比べ5分の1以下の価格で利用することができる。一方で、充電用の電源がある座席を指定したり、大きな荷物を持ち込む際は追加料金が取られる、といったようにLCC的な料金徴収の手法も取り入れている。
なお、SNCFはリブランディングに併せて、Ouigoの路線拡充を進める方針も示している。同社によると、高速列車利用者全体におけるOuigoのシェアは現在5%にとどまるが、これを2020年に25%まで引き上げたいとしている。また、それに伴い、編成数も35本まで増やすと鼻息も荒い。
SNCFが掲げるリブランディングには、TGVのサービスを2分割する以外に、別の大きな目的を掲げている。
現在同社は、フランス語でOuiという言葉を使ってさまざまな運輸事業を行っている。最初にOuiの名を冠したサービスは、2013年にスタートしたOuigoだ。その後、国際・長距離バス事業の“iDBus”を“Ouibus(ウィバス)”と改称、マイカー貸し出しサービスのサイトに“OuiCar(ウィカー)”と名付けている。つまりSNCFは「Ouiブランド」を鉄道だけでなく各種のモビリティー事業へと展開しているのだ。
新たな事業展開に迫られる理由とは
実際に、SNCFの予約サイトを開けてみると、鉄道だけでなくOuibusの予約ができるタブが並行して設けられている。つまり今後は、格安なら時間がかかってもいいという人はOuibus、列車で移動したいがお金がかけられない人はOuigo、できるだけ速く快適に旅行したい人はinOuiと3通りのオプションから選べるというわけだ。SNCFの関係者はこれについて、「あらゆる旅のニーズに対し、あらゆる選択肢を提示することができる」と語っている。
上下分離や民営化など、さまざまな形で改革が図られている欧州各国の鉄道事業だが、SNCFは依然として国が運営している。鉄道事業は現状、SNCFのほぼ独占と言ってよい状況の中、巨額の資金をかけてリブランディングを行い、新たな客層の掘り起こしを図るのはなぜなのだろうか。
鉄道アナリストの間では今回のinOui導入について、「2021年に高速列車運営の独占権が切れるのが遠因ではないか」との声が上がっている。あと4年で外国の鉄道事業者による高速列車の乗り入れもあり得る中、いまのうちに新たなブランドイメージを消費者の中に刷り込みたい、という考えがあるのでは、とささやかれている。
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