「失礼します」の日本語に込められた深い真意 人は目に見えなくても支えられて生きている

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しかしよく考えてみると、部屋に入るだけで「誰に何の迷惑をかけ、何を邪魔しているのか」と疑問を持つ方も多いと思います。

この疑問は、「失礼」の「失」の意味を知ることでクリアになります。「失」とは「何かを失うこと」を意味しますが、実はこれには「うっかり」「不注意」という意味合いも含まれているのです。つまり、「故意」に「何かを失う」のではなく、「うっかり失う」ことなのです。これは「失」という漢字が、「手から物がそれる」という形から成り立っていることに由来していているのです。

つまり、「失礼します」とは、時として、わざとではなく、無意識で部屋の中にいる人や、そこにある物などに対して迷惑をかけたり、何かの邪魔をしてしまうかもしれないという「この無礼をお許し下さい」という意味なのです。

目に見えない「はたらきかけ」への気配り

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実際、私たちは直接目には見えないだけで、さまざまな場面でいろいろなことに支えられて「生かされて」います。しかし、このことになかなか気が付かず、すべてを当たり前だと錯覚している人は多いでしょう。そして逆に、常に感謝の心を持った生活をされている方は少ないのではないでしょうか。

この「失礼します」という言葉は、目には見えず、また直接感じることはできなくても、私たちはさまざまな「はたらきかけ」に支えられ、繋がっているという「私たちの存在の真実」を語っているのだと思われます。

つまり、目に見えない「はたらきかけ」を気遣う精神が、「失礼します」という言葉に流れているのです。そして、その精神が「お辞儀」という人の頭を下げる行為に結びついているのかもしれません。

ただ習慣としての空っぽの言葉としてではなく、気持ちを込めた言葉として、私も今後は「失礼します」を使っていきたいと思います。

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大來 尚順 浄土真宗本願寺派僧侶

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おおぎ しょうじゅん / Shoujun Oogi

1982年、山口県生まれ。浄土真宗本願寺派僧侶でありながら、通訳や翻訳も手掛ける。龍谷大学卒業後に単身渡米。カリフォルニア州バークレーのGraduate Theological Union/Institute of Buddhist Studies(米国仏教大学院)に進学し修士課程を修了。その後、同国ハーバード大学神学部研究員を経て帰国。帰国後は東京と山口県の自坊(超勝寺)を行き来しながら、僧侶として以外にも通訳・翻訳、執筆・講演などの活動を通じて、国内外への仏教伝道活動を実施。翻訳著書も多数出版する傍ら、初級英語で仏教用語をやさしく解説した「英語でブッダ」(扶桑社)も非常に好評のほか、「お坊さんバラエティ ぶっちゃけ寺」(テレビ朝日系列)にも出演。
 

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