固定資産税に翻弄される人たちの悲痛な叫び 時代に合わなくなっているのに変わらない

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埼玉県本庄市は同年3月、1342件の課税ミスを公表した。2006年に合併した旧児玉町の地区で旧町の担当者が住宅用地の特例を誤解していたと言い、取りすぎで税金が戻るケースが970件、逆に追徴課税したケースが372件あった。

住宅用地は、1つの区画として使われていても、登記上は2つ以上に分かれていることがある。その際、一部の用地にしか特例を適用しなかったり、逆に、住宅用地ではないのに特例を適用したりする誤りがあった。旧本庄市の地区では見つかっていないミスだという。

埼玉県新座市では2014年6月、27年間にわたって住宅用地の特例を適用せずに過大な固定資産税を払わされていた老夫婦の家を、市がほかの税金も含めた滞納を理由に公売で売却してしまう深刻なミスも発覚した。こうした事態を受けて、総務省は2014年9月、全国の市町村に向けて間違いの具体例を示しつつ、固定資産税評価の信頼を確保するよう通知を出した。

取りすぎたのに返さない自治体

ところが、ミスをミスと認めない自治体がある。取材をしていると、ミスがわかったときに謝罪して、取りすぎた税金を返すという当然のことができる自治体は、まだマシなほうであることがわかってきた。背景には、固定資産税などの資産課税が自治体税収の約半分を占めているため、ミスを認めて返還すると財政に影響するという意識があるようだ。

新潟市の主婦、楠原富美子さん(57)は2012年、自宅の庭に対する課税の誤りに気づき、2013年度から納税額が年3万円余り下がった。ところが、新潟市は過去に納めすぎた税金を返さないままだ。

楠原家は1995年、自宅に隣接する約250平方メートルの土地を買った。1997年、その一部を駐車場として整備し、倉庫を置いたり畑や花壇を造ったりして庭として使ってきた。自宅の庭なのに、固定資産税額が大きく下がる「住宅用地の特例」が適用されず、2012年度まで17年間にわたり、誤った割高な税金を払わされていた。

朝日新聞の記事を読んで、過去に払いすぎた税金を戻す自治体があると知った楠原さんは市のホームページから市長宛に質問をした。

すると、市の税務を取り仕切る田村敏郎税務監の名前で、返せないことを告げる手紙がきた。それは、「外見上、確認できず、届け出や申告もない場合のすべての土地や家屋の利用状況を把握することは困難」として、市側に重大な過失がないので返さないという内容だった。要するに、外見だけで判断しているので、間違いを認めて返しているとキリがないというわけだ。

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