「かぐや姫」に隠された恐怖の裏ストーリー 「竹取物語」は愛の物語なんかじゃない

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物知りのおじいさんに言われたとおり、回っている燕を見かけ、急いで籠を引っ張ってもらうのだが、何かをつかんだと思ったら落ちてしまう。気絶後、やっと目が覚めたら……。

「ものは少しおぼゆれど、腰なむ動かれぬ。されど子安貝をふと握りもたれば、うれしくおぼゆるなり。まづ、脂燭さして来。この貝、顔見む」と御頭もたげて御手をひろげ給へるに、燕のまり置ける古糞を握り給へるなりけり。
【イザ流圧倒的意訳】
意識が少しはっきりしてきたけど、腰が抜けて動けない。でもどうだっていいんだ! 子安貝をしっかり握っているんだもん! うれしくてたまらない!! 明かりを持ってきて、早く見たい!」と頭を上げて、手のひらをゆっくりと広げた。ところが、子安貝を握っていたんじゃなくて、なんと燕が垂らした古糞をぎゅっと握っていただけだった。

 

ほかの挑戦者と比べて近い場所で手に入れることができる、最も地味な品を頼まれたにもかかわらず、かわいそうな中納言石上麻呂足は成功するどころか転落し、大恥をかく。そのあとすっかり元気をなくし、なんと命まで落としてしまう。かぐや姫のせいでついに死者が出てしまったのである。

そしていよいよかぐや姫がすべてを捨てて、遠いところへ旅立つ日がやってくる。この世の記憶をすべて失った姫は、結局最後まで「愛」というものを知ることなく、地球を去っていく。

これは愛の物語なんかじゃない

かぐや姫は近づく男性に難題を出して破滅に追い込む、冷酷な女だ。そして彼女の周りに群がる男たちは権力や財力はもっているものの、ウソつきだったり、詐欺師だったりする。非情な女の目を通して、人間の欠点や汚点が一つひとつ暴露されていくわけだが、彼らの「敗北」こそ権力に反発しようとしていた不詳の作者が最も望んできたことなのだろう。

この物語には恋や愛なんてちっともない。あるのは、欲望と傲慢さ、そしてウソだけだ。日本では、いまだに愛の物語やSFとして取り上げられがちだが、作者不詳が徹底的なまでに権力者を苦しめるこの話は、当時からユーモアの効いた風刺小説として読まれていたと言われる。

恋に命を懸ける昔の貴族を見習ってほしいと思い、草食化がどんどん進んでいる日本男子に『竹取物語』を推奨してしまったのがかなりの誤算だった。これだから私にモテ期が訪れないのかもしれない……。

イザベラ・ディオニシオ 翻訳家

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Isabella Dionisio

イタリア出身。大学時代より日本文学に親しみ、2005年に来日。お茶の水女子大学大学院修士課程(比較社会文化学日本語日本文学コース)を修了後、イタリア語・英語翻訳者および翻訳コーディネーターとして活躍中。趣味はごろごろしながら本を読むこと、サルサを踊ること。近著に『悩んでもがいて、作家になった彼女たち』。

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