トヨタの「存在感」が実は薄くなっているワケ 軽視気味だった「EV」が世界で台頭してきた

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「メルセデス・ベンツ」を展開する独ダイムラーなど欧州勢もVWと歩調を合わせるように昨年9月のパリモーターショーでEVシフトをアピールした。EVをめぐっては欧州勢だけでなく、新興のBYDなど中国系も台頭。米EVベンチャーのテスラは株式時価総額が米ゼネラル・モーターズなどデトロイト3を一時抜くなど、勢いを増している。

各国の規制もEVを“後押し”する。米最大市場のカリフォルニア州では2018年モデルから「排ガスゼロ車(ZEV)規制」が強化される。トヨタが1997年に世界で初めて量産車として発売開始し、エコカーの代名詞となった「プリウス」などHVはエコカーとみなされなくなるなど逆風だ。もっともFCVでもZEVのクリアは可能だが、水素ステーションなどのインフラ整備が進んでいないほか、生産にも限界がある。

日本ではドル箱として君臨する「プリウス」だが……(撮影:尾形文繁)

トヨタは適時・適地・適車の考えのもと、HV、PHV(プラグインハイブリッド)、FCV、EVなど全方位で開発を進めてきたとしている。だが、力の入れ方が違っていた。トヨタ内には“反EV派”が少なくなく、トヨタ中堅社員は「EV開発は細々と進めたが肩身が狭い存在」だったという。それでも新たな世の中の動きに反応し、社長直轄でEV新組織を立ち上げたのが昨年12月。その後、矢継ぎ早に陣容拡大に動いているわけだ。

次世代カーのキーワードは「CASE」

自動車業界は今、「100年に1度」といわれる変革期にある。次世代カーのキーワードは「CASE」。C(コネクティビティ=ネットとの接続)、A(オートノマス=自動運転)、S(シェア&サービス)、E(エレクトリックドライブ=電気駆動)の頭文字をつなげた造語だ。

自動車の生みの親である「メルセデス・ベンツ」を展開する独ダイムラーのツェッチェ社長が昨年9月のパリモーターショーで提唱し、自らもCASEに合わせた電気自動車「EQ」のコンセプトを発表した。ただCASEでトヨタが先頭を走っている印象はない。特にトヨタがあまりアピールをしてこなかったEVや自動運転が脚光を浴びる中、むしろ存在感が薄いともいえる。

足元では予測不能のリスクも顕在化している。米国ドナルド・トランプ大統領の動向だ。「ありえない! アメリカ国内に工場を造らないなら、国境税を払え」。トヨタが2019年に稼働予定のメキシコ新工場について年明け早々、トランプ氏から強烈な刃を突きつけられた。4月18日に日米経済対話も始まった。日本との貿易赤字を問題視するトランプ氏が今後どう出るかは予断を許さない。

「何が起きるかわからない激動の時代。だからこそ、変えてはいけないブレない軸と未来のために今を変える覚悟を持つべきだ」。4月3日に愛知県豊田市のトヨタ自動車本社で行われた入社式。豊田社長は新入社員を前にこう強調した。それは同時に既存社員にも訴えたかった内容だ。

今年はトヨタグループの祖、豊田佐吉翁が生誕150年を迎えたほか、トヨタ創立80年の節目の年でもあり、トヨタの歴史を振り返る場面が増えている。豊田佐吉翁の理念をまとめた「豊田綱領」には「研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし」と出てくる。豊田社長体制は6月で9年目に突入する。大きな変革の波が起きる中、巨人トヨタの力が試されている。

冨岡 耕 東洋経済 記者

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とみおか こう / Ko Tomioka

重電・電機業界担当。早稲田大学理工学部卒。全国紙の新聞記者を経て東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などにも所属し、現在は編集局報道部。直近はトヨタを中心に自動車業界を担当していた。

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