希少部位、赤身肉、塊肉、熟成肉。次々とムーブメントを生み出す焼き肉業界は、ここ数年、空前の焼き肉バブルという状況と言えます。私は平均して週2回のペースで東京都内のさまざまな焼き肉店、予約困難店を含め、累計120店舗以上を訪店しており、その動向について独自研究しています。
その私からすると、ここ数年の焼き肉ムーブメントについて俯瞰(ふかん)して、時間軸で眺めると、牛肉に関連する政策、事象の後に、連動してムーブメントの一端が垣間見えてくる傾向があることに気づきました。
美と健康の代名詞である赤身肉
焼肉チャンピオンから部位細分化、希少部位化がムーブメントになったことは解説しましたが、次にムーブメントになった部位は、赤身肉です。2012年頃から低糖質ダイエットブームがありました。この時に着目されたのが、美と健康の代名詞である赤身肉です。赤身肉には脂肪が少ない分、霜降り肉よりもタンパク質やビタミン、ミネラルが多く含まれ、ダイエット食の一翼を担う形でムーブメントになりました。
次のムーブメントは2013年にBSE問題で一時ストップ気味になっていた米国産牛肉が再度輸入されるようになったことに起因しています。2014年2月に「ウルフギャング・ステーキハウス」が日本初出店(東京・港区六本木)し、9月には「BLT STEAK」が日本初出店(東京・港区六本木)したことにより、2015年に熟成肉、塊肉のムーブメントが起こります。
それまでの肉愛好家にとって、熟成肉や塊肉はなじみが薄かったと思いますが、この時、肉は熟成させて塊で焼いたうえ、カットして食した肉がおいしいという認識が広まります。熟成肉も塊肉も赤身肉が主流になりますが、熟成により、肉自体が持つ酵素の働きによってタンパク質が分解され、うま味成分であるアミノ酸を生成します。結果、肉のうま味や風味が増し、肉がやわらかくなり、肉の水分が蒸発して味も濃厚になります。この状態が「熟成肉」という状態です。
赤身肉、熟成肉、塊肉の一連の流れで、2016年に流行したのが、ローストビーフ丼です。丼に盛られたご飯が見えなくなるぐらいのローストビーフを山のように敷き詰め、山頂に生卵の黄身を落として提供されます。ムーブメントの要因として、1つ目に、ローストビーフ丼が赤身肉主体であることから、赤身肉、塊肉が流行した延長上という理由が挙げられます。2つ目は2011年に生食用食肉規格基準制定により、ユッケ等の生肉が気軽に食せなくなったことによる「生食」への不足感からの影響もあったと考えられます。3つ目は味もさることながらインスタグラム、フェイスブック、ツイッターなど、SNS投稿に映えるビジュアルもその一因と考えるべきでしょう。合わせて「#フォトジェ肉」などというハッシュタグも流行しています。
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