海外一流ブランドがセールを一切しない理由 日本アパレルが疲弊した「構造的な原因」とは
遣田:ファッションの流通は、生産から販売までさまざまな中間業者が介在するから、マージンが抜かれる分だけ売価が高くなっていくのが課題だった。
山田:そして、消費者の購入価格が高くなる割には、製造元である工場の取り分が少ない。一般的に、工場の取り分は売価の約20%程度といわれています。だから、仮に15000円の購入価格の洋服を作ったとしても、工場に入るのはわずか3000円程度。
遣田:流通に対する懐疑論は昔からあって、たとえば1962年に林周二さんが上梓した『流通革命』でも指摘されている。
その点、山田さんがやっている「ファクトリエ」はメーカー(工場)と消費者を直接結びつけるモデルだから、仲介業者が少なく、これまでの課題を改善したといえる。ちなみにこのモデルは、海外の一流ブランドも採り入れている。
山田:ルイ・ヴィトンもそうですか?
遣田:そうだね。シャネルやエルメスもそう。
海外の高級ブランドの場合、1960年代、1970年代ごろまでは日本の業者や代理店が海外で商品を買い付けて日本で販売していたけど、そうするとセールや値引きをされることがあって、ブランドイメージを毀損しかねない。そこで日本法人を設立し、広報も含めて自分たちで流通をコントロールするようになった。
山田:なるほど。
だからヴィトンは、セールもアウトレットもやらない
遣田:ルイ・ヴィトンに関していえば、セールはいっさい行っていないし、アウトレットでも販売していません。
こうしてメーカー機能と小売りを一体化させることは接客にも影響を与えていて、海外の高級ブランドはコンサルティブな販売スタイルを大切にする。接客スタッフは単なる窓口として売ってもらう人だ、という考え方ではない。
日本のファッションブランドにおいても、販売員の地位をもっと上げることが必要。そこで、2016年6月には「日本プロフェッショナル販売員協会」を設立しました。
山田:ブランドの思いを消費者に直接伝えるのは、接客する方たちですもんね。「ファクトリエ」もまさに同じような考え方をしていて、店長・店員ではなく”コンシェルジュ”。実際にそう呼んでいます。
遣田:大事なところだよね。流通といっても、商品を届ける販路だけが重要なのではなくて、どういう体験とセットで届けるのかも大事。シャネル銀座ビルディングに行くと、レストランがあったり、ホールで展覧会が開かれていたりするわけじゃない?
山田:あの広々としたホールに行くと、「ここで商品を売ればいいのに」ってちょっと思ってしまいます(笑)。
遣田:思うよね(笑)。でも、ホールでブランドの世界観を表現することによって、消費者の体験価値を高めているわけです。
山田:先ほど「消費者が体験を選んで消費するようになっている」という話をしました。これはひょっとして、日本のファッション業界にとっても追い風では。
遣田:体験に価値が見いだされ始めている時代の追い風に乗れば、消費者の心をつかんでいける余地はあるでしょうね。いいものって見ればわかるし、いいものを着ていると長く使いたくなるから。娘の成人式のときも、妻が成人式で着た振り袖を着たんだよね。
山田: へえ! 何十年も前のものが受け継がれるって、すてきですね。
効率的に大量生産されるファッションだけがよしとされる風潮では、必ずしもなくなってきている気がします。
遣田:非効率的につくられたいいものに粋を感じる人たちは、確かにいる。そういう人に満足してもらえるいいものづくりを絶やさないためにも、一緒に頑張っていきたいね。
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