インフレを加速しない失業率であるNAIRU(Non-Accelerating Inflation Rate of Unemployment)という考え方があるが、その水準は構造失業率に近い水準であるとみられる。このインフレを加速しない失業率も固定的なものではない。たとえば、現在失業率が3%で物価上昇が起こっていないからといっても、インフレが激しくなった後に金融財政政策で景気を減速させ、失業率を3%に戻せばインフレを止められるとは限らない。インフレが激しかった時代の経験からは、一度インフレが加速すると、それを止めるためには失業率を大きく高めて景気を冷やす必要があるというように、過去の経験に依存する「履歴効果」があるからだ。
消費が増えないのは所得が低迷しているから
日本で失業率が低下しているにもかかわらず物価上昇率が高まってこない原因として、家計の消費意欲が弱く内需が低迷していることが問題とされることがある。しかし、消費の低迷は消費者の意欲の問題ではなく、所得の問題だ。
GDP(国内総生産)統計の家計貯蓄率をみれば、1994年度に13.0%だった家計貯蓄率は2015年度には0.7%にまで低下していて、昔に比べて手取り所得から消費に回る比率は高まっている。
家計は可処分所得のほぼすべてを消費に振り向けているが、家計は貯蓄率をマイナスにすれば、現在の所得で今まで以上に消費を拡大することが可能だ。しかし、そのためには保有している資産を減らす必要があり、経済が拡大する中で家計が資産を減らして消費を拡大しなくてはならないというのは、安定的に拡大する経済の姿として、どう考えても不自然だ。家計の消費が低調なのは消費意欲の問題ではなく所得が不足しているからであり、所得の拡大がなければ消費を持続的に拡大させることはできない。
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