インド・モディ首相、ブラックマネー撲滅狙う バークレイズのチーフ・エコノミストに聞く

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――FRB(米国連邦準備制度理事会)が3月にも利上げに踏み切る見通しが高まっています。2013年に起きた、いわゆる「バーナンキショック」のように新興国経済に悪影響をもたらすリスクはないのでしょうか。

インド経済は2013年と2017年とで大きく異なる。2013年のインフレ率は約10%、経常赤字はGDPの5%相当だった。財政赤字も同5%程度あった。当時と比較して、現在の経常赤字額は半分以下に減った。インフレ率は過去2年間、平均して5%を下回っている。財政赤字も2016年度に約3.5%程度まで低下し、2019年度には3%になる見通しである。

米国の利上げによって、グローバルな市場のセンチメントが変わっても、インド経済はそれほど大きな影響を受けないだろう。インド中央銀行も緩和的な金融政策スタンスを取っており、米利上げに伴うリスクを幅広く警戒している。当面、すぐにリスクが顕在化するとは考えていない。

食料品価格の管理に成功し、インフレ沈静化

――特にインフレ沈静化にうまく成功したようですが、何が理由ですか。

2013年当時と比べて、インフレ率が約5.5%ポイント下がった。多くの人は商品価格、原油価格の下落を指摘するが、それだけではない。インドの消費者物価指数は食料品だけで40%を占めている。消費者物価のコントロールに成功したのは、食料品価格をうまくマネージできたからだ。

2014年と2015年は雨不足に悩まされ、天候面でも逆風だったが、政府は食料在庫を放出したり、最低価格制度(ミニマム・サポート・プライス)をうまく運営したりして、食料品価格をうまくマネージできた。中央銀行もフレキシブルインフレ目標政策を導入し、1年目(2013年)は8%、2年目(2014年)は6%、3年目(2015年)は4%プラスマイナス2%ポイントの目標を掲げた。

――米国のトランプ大統領による中東やアフリカの7カ国を対象にした入国禁止令が波紋を広げています。インドからも多くの人が米国に入国していますが、影響をどう見ますか。

多くのインド人が米国の、特にハイエンドのサービスセクターで働き、H-1Bビザ(事前に決められた専門職に就くためのビザ)を保有している。答えは正直言ってわからないが、注視していく必要がある。

――モディ政権は比較的順調に経済を運営しているようですが、今後の課題は何ですか。

1つ目は民間設備投資の弱さ、2つ目は銀行の不良債権問題だ。不良債権比率は2016年9月末で9.1%と非常に高い。金融危機を経て不良債権比率が高まったが、改善のペースは非常に遅い。さらに、インフラ整備も必要だ。電力や道路、鉄道など、多くの分野にもっと資金を投じる必要がある。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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