「自立する力」を相続できない子が貧困になる 運命を分ける「非認知能力」の向上を支援せよ

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自立する力の要素(3)非認知能力

その問いに対して大いに参考になりそうな、興味深い海外の研究を紹介したい。「ペリー就学前計画」というアメリカの研究プロジェクトである。この研究では貧困地域の子どもに対し、就学前教育を行い、その後の人生の推移について数十年にわたる追跡調査を行っている。その調査結果の1つとして、学力以外の要因が高校卒業率を高めていることがわかった。

この学力以外の要因は、「非認知能力」と呼ばれる。非認知能力とは、国語・算数・理科・社会といった認知能力(いわゆる学力)ではなく、意欲・自制心・やり抜く力・社会性などの認知能力以外のものを指す。その範囲は広範であり、現行学習指導要領で掲げられる「生きる力」とも重なる部分が多い概念であり、昨今非常に注目を集めている。

成功を左右する、やり抜く力

TED Talks において、800万回以上の視聴回数を誇る、ペンシルバニア大学のアンジェラ・リー・ダックワースによる「Grit: The power of passion and perseverance」では、次のようなことが述べられている。

『徹底調査 子供の貧困が日本を滅ぼす 社会的損失40兆円の衝撃』。本書では、子どもの貧困による社会的損失を詳細に検証している(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

「さまざまな状況において、ある1つの特徴が大きく成功を左右していました。それは社会的知性ではありません。ルックスでも、身体的健康でも、IQでもありませんでした。やり抜く力(Grit)です」

先ほどの高校中退の問題に戻ろう。高校を中退してしまう原因も、この「やり抜く力」に原因があるのではないかと専門家の間では考えられている。日本財団子どもの貧困対策チームは、これを子どもが身に付ける機会が、世帯所得が低い家庭において不足しているのではないかと考えている。「やり抜く力」の社会的相続が不十分もしくは歪められて行なわれているかもしれないのだ。

おカネ、学力、非認知能力。これら3つの要素が子どもたちの自立には欠かせない。これらの自立する力の社会的相続が不足ないし歪んでしまっている場合、第三者がいかに補完していくかが、経済的・社会的に不利な立場におかれた子どもたちの自立に大きな影響を与えると筆者たちは考えている。

花岡 隼人 日本財団プロジェクトコーディネーター

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はなおか はやと / Hayato Hanaoka

1985年、東京都生まれ。一橋大学法学部卒業、ワルシャワ大学政治学研究科修了。三菱総合研究所にてコンサルタントとして勤務後、ポーランド留学を経て、2013年9月より現職。発達障害者支援に従事した後、子どもの貧困対策チームに立上期から参画し、「推計レポート」製作や「子どもの貧困対策プロジェクト」など幅広い業務に携わる。また、自ら社会に変革をもたらす「ソーシャルイノベーター」の発掘・育成のための「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2016」事務局にも従事

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