「自立する力」を相続できない子が貧困になる 運命を分ける「非認知能力」の向上を支援せよ
たとえば、親がファストフード店やコンビニエンスストアなど非正規の職業を転々として働く姿を見ていたら、それが子どもの職業観につながるかもしれない。また、母親がアルコールに浸り、一日中パソコンと向き合っていて、食事や洗濯などの家事を一切しないような状況下にいれば、規則正しい生活とは何であるかを知らないままに育ってしまうかもしれない。児童養護施設で育った人からすれば、ほとんどの先輩が施設退所後に就職しているのが「当たり前」の世界であり、大学進学が選択肢に入らない可能性も十分にある。
このように、貧困を背景に、社会的相続が歪められることで、子どもたちの自立する力が十分に身に付かず、貧困の連鎖を招いているのではないかとわれわれは考えている。
一方で、不十分もしくは歪められた社会的相続は、第三者の助けによって取り戻すことができるかもしれない。信頼できる第三者によって社会的相続を補完され、貧困の連鎖から抜け出そうとしている事例も多く存在する。財産の相続とは異なり、社会的相続は1回限りではなく、適切な支援があれば、彼らの自立する力を高めることができるのだ。
自立する力にはどんなものがあるのか
自立する力の要素(1)おカネ
では、社会的相続が「『自立する力』の伝達行為」だとすると、自立する力にはどんなものがあるのだろう。
まずは、おカネである。おカネが「力」と言われると違和感があるかもしれないが、自立につながる重要な要素であることから、ここではあえて「力」の1つとして整理したい。
貧困と聞いて、真っ先に思い浮かべるのは経済的な困窮、すなわち「おカネがない」という状態である。おカネがなければ、さまざまなことにおいて制約をうける。調査に応じてくれたある少年は、整髪料を買うおカネがなくて万引をしてしまい、警備員に手をあげたことがきっかけで少年院に入ることとなり、人生が一変してしまった。またある少女は、学業と生活を両立させるため、短時間で高給を稼げる風俗の仕事をしながら、ギリギリの暮らしを迫られている。おカネがなければ、将来的な自立を考える余裕がないのである。政府が生活保護や児童扶養手当などの現金給付を重視しているのも、こんな背景からである。
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