「自立する力」を相続できない子が貧困になる 運命を分ける「非認知能力」の向上を支援せよ
一方で、おカネがあるからといって、それだけで彼らの自立が約束されるかといえば、そんなに単純ではない。調査の中でこんな話を伺った。ある支援者が生活保護家庭の小学1年生の子どもに「将来、どんな仕事に就きたい?」と聞いたところ、その子どもは「役所に行けばおカネがもらえるから、働かなくてもいいでしょ」と答えたという。子どもは親が生活保護費を役所から受け取ってくる姿を見て、そのように回答したのだと思う。
このケースを聞いて、特殊な事例だとお考えになる読者も多いと思う。しかし、同様のエピソードは他のヒアリングでも確認されている。誤解を招かないように申し上げるが、生活保護制度の利用そのものは、必要に迫られた場合であれば、何ら批判されるべきものではない。問題は、子どもたちが「職業選択の1つ」として生活保護の利用を考えていることである。現金給付を通じて、社会的相続が歪められていることがわかる。
おカネは自立する力を構成する重要な要素であることは間違いないが、おカネだけで貧困の連鎖を断ち、自立を促すことはできないことがわかっていただけると思う。
学力は重視されている
自立する力の要素(2)学力
では、自立する力にはおカネ以外にどんなものがあるのか。
やはり学力の存在は大きい。現在の行政施策でも、学力は重視されている。
すでに述べたように、日本は学歴社会であり、学力が将来の所得を大きく決める要素になる。家庭の経済状況によって教育格差が生まれないように、行政は就学援助や生活困窮者世帯向けの学習支援事業を行っている。実際に多くの自治体において、無料の学習塾を開催しており、朝日新聞の記事によれば、調査に回答した479の自治体のうち、32.2%、およそ150の自治体がすでに学習支援を実施しているという。
しかし、たとえ学習支援によって学力が向上したとしても、自立にそのまま結びつくわけではない。高校は入学することも大事だが、自立という観点から見れば、卒業することのほうがもっと重要である。実は、世帯別の経済状況でみると、高校進学率には大きな差はないが、中退率には大きな差があるのだ。このデータだけ聞くと、「経済的な事情で高校に通うことができなくなったのだろう」とお考えになるかもしれない。だが、政府は4000億円近くかけて高校の授業料を無償化している。少なくとも制度のうえでは、たとえ経済的に困窮していたとしても、高校に通うことはできるのだ。
そうなると、中退の原因は他にあるということになる。学費を賄うための経済的な支援があり、一定の学力がある子どもが中退に追い込まれる背景には何があるのであろうか。そして、それがなぜ経済状況でこんなにもばらつきがあるのだろうか。
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