激震!「ワセダクロニクル」スクープの舞台裏 渡辺周編集長が語る「調査報道への覚悟」
――記事を有料にする、という方法もありそうですが。
それは考えていません。読者からおカネをもらうということでは、記事に課金をするのも寄付金集めも同じ。ただ大きな違いは、寄付の場合は、おカネを払えない人の手助けもしている。この世の中をよくするために調査報道が必要だと考える方には、「俺はおカネを払っているのにタダで読んでいる人たちがいる」と考えるのではなく、世の中のためのお布施と考えてほしい。社会に不可欠な公共性の高いメディアとして定着させるためにも、寄付モデルで行きたいと思っています。
――中長期的なことを伺います。数は少なくとも丁寧に扱っていくという考え方と、硬軟合あわせて数も打っていくという考え方があると思います。どちらでしょう?
詰めて詰めて、珠玉の記事を出していきたい。ただ、今回の特集が終わってから次のテーマをゼロから動かす、というわけではなく、今も同時並行で複数のネタを仕込んでいます。
調査報道の難しいところは計算できないこと。9割9分までうまくいっても、あと1分がうまくいかなければ記事にはできないので。結果的には記事にできないものもたくさん出てくると思います。
テーマ設定をするときにもう少し気軽に出せるものも設定して手数を打ったほうがいいという考えもあると思いますが、調査報道なのでそれは難しい。調査報道とは、相手が隠していることを自分たちの取材で暴露すること。その際、何でも暴露すればいいわけではなく、犠牲者を救うことが目的です。単に話題性が高いから、ということでテーマを選ぶようなことはしたくありません。
犠牲者を救うことが重要
――有名人の不倫などを扱うわけではない、と。
それは私たちが目指すものではありません。私たちは公共性の高いテーマを扱っていきたい。犠牲者を救う、ということが大事なのです。今回の記事に対して、「新聞業界におけるステルスマーケティング(ステマ=広告を記事と偽って流布させること)」と考えている方が業界内には多いようですが、ステマというのは営業手法の話。営業でズルをすることは悪いことでしょうが、あくまで業界の話であり、犠牲者が誰なのかがわからない。「買われた記事」というタイトルにしたのは、「読者の皆さんが読んでいる記事は誰かに買われた記事なんですよ、どう思いますか」ということを訴えたかったからです。
――医療関係の記事としては、昨年末にはいわゆる「WELQ問題」があり、新興メディアの記事内容の事実確認の甘さが問題になった。それに対して既存メディアはしっかり取材をしていて信用できる、という方向に振り子が振れたと思います。でも、今回の「買われた記事」を読むと、既存メディアは昔からもっと腐っている、という結論になります。
そういう見方もできると思いますが、1つ誤解をしてほしくないのは、メディア同士でたたき合いをしたいわけではない。既存メディアvs.新興メディアというとらえ方もしてほしくはありません。今回、誰が犠牲者なのかといえば患者さんです。調査報道の目的は、犠牲者を救うことであって、メディアをたたくことではない。そういう意味では、成果を独り占めにするつもりもなく、同じ志を持つジャーナリストと幅広く連携していきたいとも思っています。
――共同通信社からは抗議もあったと聞いています。同社内で自浄作用は働くと思いますか。
メディアの経営は非常に苦しい。広告収入が大きく減少する傾向がある中では、高齢化を追い風に業績を伸ばしている製薬会社が大事なスポンサーであることはわかります。しかし、ジャーナリズムとしては越えてはいけない一線があり、せめぎ合いの中でバランスを取る必要がある。ところが、ある段階でそのバランスが崩れ、記事を書くとカネが支払われるということが始まってしまった。一線を越えることに対して問題を感じた人は多かったと思いますが、おカネの魔力に負けてしまった。
今こそ自浄能力を発揮してウミを出し切ることが必要です。そのためにも共同通信の記者の皆さんが社内で声を上げて戦っていくことを期待したいと思います。
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