(第1回)会社の第一の目的は利益をあげることではない

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(第1回)会社の第一の目的は利益をあげることではない

國貞克則

●ドラッカー思想と日本の商道が出会うところ

 組織のマネジメントについて考えるとき、まずは組織の目的を考えるところから始めたいと思います。目的が違えばマネジメントの方向性も力点の置き方も違ってきます。私が企業の管理者を対象に行うマネジメント研修でも、冒頭「企業の第一の目的は何でしょう?」と受講生に問うことから始めます。
 ほとんどの人が企業の第一の目的は「利益をあげることだ」と答えます。たしかに、利益は企業にとって大切です。しかしながら、企業の第一の目的は決して利益をあげることではありません。企業の第一の目的は「お客様に選んでいただける商品やサービスを提供すること」、ただそれだけです。
 この「お客様に選んでいただける商品やサービスを提供すること」という言葉は私が使っている言葉ですが、このような考え方は私だけのものではありません。古今東西、多くの人がビジネスに携わってきました。洋の東西を問わず、本質を考えてきた人たちは皆これと同じような発想をしています。まずは西洋の偉大な経営学者の考え方を見てみましょう。
・「事業の目的として有効な定義はただひとつである。それは顧客を創造することである」(ピーター・ドラッカー、『現代の経営』より)
・「事業を成功に導く要素はいろいろあるが、現在、分野を問わず成功を収めている企業にはひとつの共通点がある。それは、顧客に最大の焦点を当て、マーケティングを最重視していることである。(中略)マーケティングの目的は、大きな価値を約束して新しい顧客を引きつけ、すでに取引のある顧客を満足させてつなぎ留めておくことである」(フィリップ・コトラー、『コトラーのマーケティング入門』より)
 ピーター・ドラッカー氏は2005年に亡くなりましたが、世界的に有名な経営学者で、「マネジメントの発明者」ともいわれています。フィリップ・コトラー氏は米国におけるマーケティング研究の第一人者といわれる人です。2人とも同じようなことを言っています。「顧客の創造」というと言葉は少し無機質に聞こえますが、どんなビジネスであれ企業には必ずお客様がいます。このお客様が私たちの提供する商品やサービスに価値を認めてくださらないかぎり企業は存続できないのです。
 私たち日本人の先輩たちも昔から商売をし、商売の本質について考えてきました。次に私たちの先輩がどのようにビジネスをとらえてきたかを見てみましょう。

・売り手よし、買い手よし、世間よし(近江商人の教え)
・徳に励む者には財はもとめなくても生じる(西郷隆盛)
・徳義商道(商売は仁の道を行うこと) 近江屋(現在の武田薬品工業の前身)
 渋沢栄一の『論語と算盤』の中に「真正の利殖は仁義道徳に基づかなければ、決して永続するものではない」という言葉があります。東洋のビジネス観は、経済と道徳を分離しないものです。昔、私たちがおじいちゃんやおばあちゃんから言われていたことも「いいことをしていれば、お金は後からついてくるんだよ」といったものでした。

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