日中対立を深める「ミサイル供与報道」の罪 "スクープ"したフィリピン紙を直撃してみた

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報道の翌日、16日の午前中に行われた記者会見で、菅義偉官房長官はこの報道に関する質問に「承知していない」とだけ述べた。報道を承知していないのか、それとも安倍首相による申し出について承知していないのか不明確な対応だった。

それをさかのぼること数時間前、中国ではすでにこの件についての記事がウェブ上で続々と登場していた。ナショナリズム色の強いタブロイド・環球時報は、「安倍首相がフィリピンに対して進んでミサイル提供を申し出たが、ドゥテルテは要らないと言った」と題する記事を掲載していた。コメント数は2700を超え、大きな話題となった。

当日夕方、ミサイル提供についてはっきりしたことがわからないまま、中国外交部の記者会見で、記者が今回の報道について質問した。

華春瑩報道官はドゥテルテ大統領の外交方針を評価したうえで、南シナ海情勢が好転しつつあるのに、「日本のリーダーは仲違いをそそのかし、いわゆる地域の緊張を誇張することにいまだに全力を傾注している。日本のこのようなやり方は底意地が悪く、このような心理状態は極めて不健康だ」といつものようにこき下ろした。

報道から3日経った18日には、川村外務報道官が改めて「官房長官が言われたとおり、この会談においてミサイル問題が議論されたということは承知していません」と述べた。これは事実上の否定だろう。しかし、日本政府が報道を即座に、そして明確に否定しなかったことが、中国国内で日本の南シナ海への対処法への猜疑心を高めることにつながったといえないだろうか。

誤報だった可能性が大きい

そもそも、火元であるスター紙は、なぜこの記事を掲載したのか。筆者は、当該記事を書いた記者に、記事がスピーチだけを基に書かれたものなのか問い合わせてみた。すると、「何についても肯定も否定もする立場にない」という玉虫色の返事が来た。一方、スター紙のエディターは、該当記事は「申し出があったかどうかについて報じたものではなく、ドゥテルテ大統領の主張について報じただけ」と明言した。

確かに、記事は外務省高官の名前のつづりを誤るレベルの低いミスがあり、独自ソースを通じて日本側の「申し出」を確認した可能性は低そうだ。

ドゥテルテ大統領の言いっぷりや、スター紙の反応から考えて、「ミサイル供与を申し出た」と結論づけることは到底できない。誤報だったのであれば、日本政府は即座に明確な否定を行うべきだった。このようなことで疑心暗鬼と不必要な摩擦を招くようでは、国交正常化45年という節目の2017年も、日中関係の改善は望めそうもない。

舛友 雄大 中国・東南アジア専門ジャーナリスト

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ますとも・たけひろ / Takehiro Masutomo

カリフォルニア大学国際関係修士。2010年中国メディアに入社後、日本を中心に国際報道を担当。2014年から2016年までシンガポール国立大学で研究員。

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