デフレ脱却の理想と現実 物価上昇率2%達成に、黒田総裁は自信を見せたが…

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ただし、2年で前年比2%を達成するというデフレ脱却に掲げた日銀の物価目標には懐疑的な見方が多い。日本経済研究センターによる民間エコノミスト40名の調査(7月調査)では、2年で2%の達成について「できると思う」と答えたのは2人だけ。35人が「できないと思う」と答えている。

黒田総裁含む政策委員メンバー9名が予想する2015年の消費者物価上昇率の中央値は1.9%。つまり、9名のうち4名が2%以上の達成を見込んでいるわけだ。黒田総裁は「2年程度で実現するための十分な政策を行っている。市場関係者の見通しと政策担当者の見通しが乖離することは、おかしなことではない」と気にする様子はない。

単純な物価上昇に対する”アレルギー”は根強い

直近の消費動向調査では、1年後の物価見通しで「上昇する」と予想する一般世帯の割合は83.9%で、昨年後半には7割以下だった水準から大きく上昇している。政権交代でアベノミクス(大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略)が打ち出されてから、景気回復と物価上昇期待が高まっているのは確かだろう。

日銀が行っている「生活意識に関するアンケート調査」(対象は全国の満20歳以上の個人4000名)でも、消費動向調査と同様に1年後の物価に対する見方で「上がる」(かなり上がる、少し上がるの合計)と答えた人の割合は直近で全体の80%と、12年12月調査の53%から大幅に上昇した。一方、過去1年の物価上昇に対する感想では、「どちらかと言えば、困ったことだ」という人が8割を占めており、単純な物価上昇に対するアレルギーは依然として強い。

 収入の増減についても、1年後と現在を比べて「減る」と答えた人は12年12月調査の44.6%から最新の13年6月調査では32.3%まで減ったが、「変わらない」という人が58%と最も多く、「増える」とした人は全体の9.2%(12年12月調査は5.5%)に止まる。収入の増加期待が高まらないことから、1年後と現在を比べて支出を「増やす」と答える人が全体の6%(同4.6%)と低いのだろう。

国債の膨大な買い入れで資金供給量を2年で2倍にするという異次元緩和を打ち出してから3カ月。大胆な金融政策でデフレマインドを打破し、インフレ期待を高めることで企業の投資や個人消費の増加につなげようというのが黒田緩和の狙い。足元の景気回復は追い風だが、黒田総裁が”理想型”とする「バランスのとれた」物価上昇が実現するかどうかは、未知数だ。

井下 健悟 東洋経済 記者

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いのした けんご / Kengo Inoshita

食品、自動車、通信、電力、金融業界の業界担当、東洋経済オンライン編集部、週刊東洋経済編集部などを経て、2023年4月より東洋経済オンライン編集長。

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