「自主避難」3.2万人、住宅支援打ち切りに悲鳴 生活問題は逆に深刻化、終わらない原発被害

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東京都内の民間アパートで小学校4年生(9歳)の長男とともに暮らす女性(41歳)は、原発事故前には郡山市内で暮らしていた。女性は今でも、原発の爆発や顔を引きつらせた政府首脳のテレビ映像が脳裏に焼き付いている。安定ヨウ素剤が配られなかったことや、飲料水をもらうために子どもとともに放射能を含んだ雨の中を小学校の前に並んだことも、決して消えることがない記憶として残っている。

子どもを守るための避難

「子どもを放射能から守るために」と始めた避難生活は過酷を極めている。長引く避難の中で夫との離婚を余儀なくされ、現在は女手一つで子どもを育てている。保険外交員の職業柄、土日も仕事が多く、子どもの預け先を見つけるのにも苦労してきた。子どもは毎晩遅い時間まで自宅でひとりで過ごす。女性は「子どもに我慢させて申し訳ない」と感じている。

最近になって朗報もあった。「都営住宅の優先入居が決まり、同じ自主避難者である友人とも家が近くなったのは運がよかった」と女性は話す。一方での新たに家賃も発生し、今までなかった駐車場代も払う必要が出てくる。

自主避難者の支援を続ける「避難の協同センター」の瀬戸大作事務局長によれば、「誰にも助けを求めることができずに苦しんでいる自主避難者は少なくない。原発事故から時間が経過する中で、住宅だけでなく、生活上の問題はむしろ深刻になっている」という。掲載した表は関東地区の都県が発表している自主避難者向けの住宅施策だが、こうした施策だけで自主避難者の問題を解決することは困難だ。

福島県が発表した自主避難者の17年4月以降の住まいに関する意向調査結果(16年11月15日現在)によれば、対象の1万2239世帯のうち「避難先で避難継続」を望む世帯が全体の3割を上回る3814世帯もある。一方、4月以降の住まいについて「未確定」は1038世帯(全体の8%)。「確定済み・移転済み」「ある程度確定」は全体の8割近くに達するが、家賃の負担の重さなどの生活状況は把握できていない。

生活再建の手掛かりをつかめない自主避難者の問題に、私たちはもっと目を向ける必要がある。
 

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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