住友重機械 ドラマの2幕目 「日本的」からの旋回 結局は「日本的」?
企業のドラマはエンドレスだ。ものの見事な復活劇。が、めでたしめでたし、では終わらない。そこから始まるもう一つのドラマがある。
住友重機械工業と言えば、「日本的リストラ」によって“死の淵”から生還した代表的な企業である。2001年末、額面を割り込んだ株価は昨年8月、1624円に駆け上った。強い部分(減速機・射出成形機など)はより強く、弱い部分(船舶・運搬機械など)は自立化を促す。人員削減は最小限に抑え、その代わり、全社員が15%の給与カットを受け入れた。納得ずくの自生的・有機的な再生である。そのドラマは07年7月7日号でも紹介した。
ところが、再生成った住重は「日本的」な枠組みから飛び出した。一転、M&Aに打って出たのである。狙った相手は米国アクセリス社。半導体製造装置の一つ、イオン注入装置で世界2位のシェアを持つハイテク企業だ。住重はアクセリス社とは
25年にわたり合弁会社SEN(日本でイオン注入装置を製造・販売)を一緒に運営してきた間柄である。
「なぜ、ファンドと結託」
取材の電話の向こう側で、アクセリス社の女性CEO、メアリー・プーマさんの声は怒りに震えていた。
「人の弱みにつけ込んだ卑劣な提案だ。裏切られた。住重はどんな企業文化、倫理観を持っているのか」。
「弱み」とは株価である。2月、住重が買収を提案した前日のアクセリスの株価は4.04ドル。07年の同社株の最高値は8.2ドル、最安値が4.04ドルだった。住重は4.04ドルに28.7%を上乗せし買収価格を5.2ドルに設定した(後に6ドルに引き上げ)が、買収総額は締めて5.4億ドル(567億円)。ところが、アクセリスの純資産は4.9億ドルもある。買収した途端、投入資金はあらかた回収できる計算になる。
住重は底値で買いたたこうというのか。アクセリスの目には、そう映った。「これが、25年間も一緒にやってきたパートナーのやることか」。
住重はこの件については、個別取材に応じない。が、胸の内を忖度(そんたく)すれば、こうなる。株価が低いのは経営力が脆弱だから。07年も05年も赤字決算で、イオン注入装置トップのバリアン社とのシェアの差は開く一方。対して、住重が主導している合弁会社のSENは毎年20億~40億円の利益をしっかり出している。住重の下にアクセリスとSENを統合すれば、イオン注入装置で首位奪取も可能になる--。
アクセリスのプーマCEOは納得しない。多層ウエハから単層ウエハへの需要シフトに立ち遅れ、シェアを失ったのは事実だが、単層ウエハ向けの新製品「オプティマ」を昨年投入し、追撃態勢は整いつつある。「(住重主導でと言うが)アクセリス抜きでやれるのか、と日本の顧客からも驚きの声が上がっている。住重はハイテク企業ではない。自分独りでは手に入れられないビジネスを盗もうとしている」(プーマ氏)。とうとう盗人呼ばわりである。
アクセリスの怒りに油を注いだのは、住重が今回の買収でプライベート・エクイティ・ファンドの大手TPGとタッグを組んだことだ。かつてTPGはバーガーキングを買収すると、追加の借金をさせてまで特別配当を徴収し、投資の早期回収を図った“実績”がある。「プライベート・ファンドはあくまで短期収益が狙い。住重は長期的な経営視点に立っていると思っていた。そんなところと結託するとは理解できない」。
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