マイクロソフトを脅かす「セールスフォース」の素顔
グーグルと連携 次世代の主役となるか
4月14日、サンフランシスコでセールスフォースとグーグルが提携発表を行った。その内容は「Salesforce for Google Apps」。グーグルのGメール、スプレッドシート、インスタントメッセージ、カレンダー機能、ドキュメント管理、プレゼンテーションツールほか、ビジネスに役立つ製品が、セールスフォースのアプリケーションに搭載された。
これまでセールスフォースのCRMアプリケーションにはオフィスツールがなく、グーグルにはCRMアプリケーションがなかったので、相互補完した形だ。また、グーグルにとっては単なるインターネット広告・検索会社から脱皮して、ビジネスCRMに収益源を確保でき、セールスフォースにとってはグーグルと組むことによる知名度向上という狙いがある。そしてもちろん、“打倒マイクロソフト”ののろしでもある。
発表の場でベニオフと握手を交わしたグーグルCEOのエリック・シュミットは、「両社は、インターネットが可能にした革新を提供するという、同じ理念を共有してきた」と語った。それが「クラウド・コンピューティング」に関する試みだ。
クラウド・コンピューティングとは、ネット上に拡散したコンピューティングリソースを使って、情報やアプリケーションサービスを提供するという概念。インターネットという雲(クラウド)のどこかにサービスを提供するサーバーがあるが、ユーザーはその場所も台数も構成も認識することなく、サービスを受け取るスタイルを指す。膨大な数の小型パソコンがつながって大きな処理をしているイメージで、仮に一つのパソコンが壊れても置き換えが効き、運用コストも安く、メンテナンスも容易だ。ユーザーはパソコンごとにインストールしなくても、社内ユーズで同時期にソフトサービスを導入できる。こうしたことが可能なのは、クラウド・コンピューティングというデータ処理が背景にあるからだ。
今回の提携により、グーグルの100万台以上のサーバーと、セールスフォースのサーバーがAPI(アプリケーション・プログラム・インターフェース)を通じて情報交換することになる。グーグルにとっては、Gメール、パソコン上のカレンダーに日々の業務を入力できる機能など、無料で提供してきたアプリケーションが、セールスフォースのビジネスツールに載ることによって、広告以外の収益を得られる。
Gメールのユーザーは、顧客からのメールをセールスフォースの顧客情報に追加することが容易になる。15カ国語対応で、当面はセールスフォースの顧客には無料提供。今夏には有料サポート版で、1人10ドル、日本では1ユーザー月1260円の価格設定になる。グーグルの無料ツールが、セールスフォースの課金システムに乗っかるという、興味深い試みだ。その利益配分は明らかにされないが、なじみのあるグーグルのツールが、セールスフォースのアプリケーションで使えるので、さらに利用度向上が期待できるわけだ。
より大きなビジネスユースへの展開に踏み出したセールスフォース。
今回の提携で、セールスフォースを利用する企業は特別なインフラを用意しなくても、さらに多様なアプリケーションをどこからでも容易に使えるようになった。ライセンス型ソフト販売のマイクロソフトには大きな脅威となるに違いない。
コンピューティングの世界は、メインフレームからクライアントサーバー型、そしてネット上でソフトが提供されるSaaSへと、パラダイムシフトの真っただ中にある。セールスフォースは、新リーダーの座に今、最も近い位置にある会社と言えるかもしれない。=敬称略=
(Ayako Jacobsson =週刊東洋経済)
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